夏山温泉 もみじや

和歌山県


前回取り上げた「きよもん湯」の目の前にある丁字路を曲がり、国道から盲腸のようにちょこんと伸びる道に入って海岸へ向かって下ってゆくと、1キロほどで風光明媚な夏山(なっさ)海岸に行き当たり、この海岸で道は行き止まりになります。この僅か1キロ強の道はれっきとした和歌山県の県道236号・勝浦港湯川線なんだそうでして、入江によって夏山海岸で分断されているものの、入江の北側から再び236号線は復活し、勝浦漁港の前を通過して勝浦港前交差点で終点となるんだそうです。いずれにせよ3キロに満たない極めて短い県道です。またゆかし潟や勝浦など周辺は那智勝浦町ですが、この夏山地区だけは和歌山県で最も小さい市町村である太地町の飛び地となっており、県道と飛び地という2つの意味において、地理マニアには興味深いところです。

 
この夏山地区に湧く夏山温泉では一軒宿「もみじや」が営業しており、そこのお風呂が良いと聞いたので、自分の五感で確かめるべく、この地へやって参りました。宿のすぐ真裏では紀勢本線の線路が横切っており、私が到着した時には特急「くろしお」がガタンゴトンと新宮方面へ走り去っていきました。

 
玄関に入って入浴をお願いしますと、ラウンジでテレビを見ていた女将が料金を受け取り、ラウンジ脇のグリーンの通路から奥へ伸びる薄暗い廊下へ、スタスタと早歩きでお風呂を案内してくれました。


なお帳場のカウンターには料金入れが置かれていますので、もし館内に誰もいないようでしたら、ここへ料金を納めて浴室へ向かっても良いみたいです。でも入浴は午後3時からですから、時間は守りましょう。


脱衣室の扉には縦に筋が入った曇りガラスが嵌められており、その表面にはペンキで「浴室」と手書きされていました。このレトロ感たっぷりのガラスと字体がいい味を出してます。

 
脱衣室内は至ってシンプルで、棚に籠が積まれているだけですが、そこそこの広さがあるので、着替えるのに不自由はしません。

 
お風呂は内湯のみ。浴室の戸を開けると、温泉由来の茹でタマゴ臭がふんわり香ってきたのですが、そんな香りとともに、昭和30年代から時計の針が止まっているかのような、郷愁をくすぐる空気感も横溢しています。
古いお風呂ですのでシャワーなんてものはなく、洗い場には水道の蛇口が2基あるばかりです。相当古い造りのはずですが、お手入れが徹底されているのか、浴槽も床もピカピカに磨かれており、決して経年を言い訳にしないお宿の努力と矜持が伝わってきました。

 
肝臓、あるいは浜千鳥や「銘菓ひよこ」を連想させる形状をした浴槽は、昔ながらの小さなタイル貼りで、縁は黒、槽内は水色という配色となっており、容量は2~3人サイズと結構コンパクトです。実際に入ってみますと、滑らかな曲線が背中にフィットしてくれました。
浴槽の真上にある窓も今時珍しい木枠で、緑や水色のペンキが塗られており、室内にさわやかな印象を与えています。

 
食品用容器っぽいボトルに入っているピンクの液体はボディーソープなのかな。床に埋め込まれている排水口の目皿は、なんとタイルと同じ焼き物です。昔の建物ではよく見られたようですが、今でも現役というのは珍しいのでは。

 
化粧石が貼られた壁の湯口よりお湯が音を轟かせながら大量投入されており、その音響は脱衣室を通り越して廊下まで届いています。そして浴槽の湯面に波を立てながら、黒いタイルの縁よりザバザバと豪快にオーバーフローしています。誰も入っていない状態でその有り様ですから、私が湯船に浸かったら、ものすごい勢いでお湯が溢れ出し、浴室が洪水状態になってしまいました。なんとも贅沢な湯使いです。言わずもがなですが、湯使いは完全掛け流しであり、短時間で浴槽のお湯が入れ替わりますから、鮮度感は抜群です。しかも、自然の恵みと言うべきか、源泉をストレートに掛け流ししているだけなのに、湯船では体感で40~41℃の湯加減となっており、いつまでも長湯したくなる夢心地のお湯なのです。


お湯の見た目は無色透明で清らかに澄んでおり、先述のように茹でタマゴの匂いがふんわりと香っています。湯口に置かれたコップで口に含んでみますと、香りに呼応するかのような茹でタマゴの卵黄っぽい味が感じられました。
お湯の豪快な投入量もさることながら、湯船に浸かると忽ち気泡が付着して、あっという間に全身がアワアワ状態になることも、温泉ファンが感動すること請け合いでして、お湯が持つアルカリ単純泉らしいツルスベ感とこのアワアワが相俟って、実に軽やかで爽快な浴感を堪能することができました。


ちなみに女湯は男湯に比べるとかなりこぢんまりしており、女性らしく淡いピンク系の配色となっていますが、男湯に負けないくらい獅子の湯口から大量のお湯が注がれており、誰も入っていないのに、惜しげも無く爽快に湯船から溢れでていました。

良泉揃いの湯川温泉エリアの中でも、昭和の面影を強く残すお風呂といい、クリアなお湯のフィーリングといい、私の記憶に強い印象を刻んでくれた素晴らしい温泉でした。

温泉分析表見当たらず

JR紀勢本線・湯川駅より徒歩25分(2.0km)、もしくは新宮駅~紀伊勝浦駅~串本駅を運行する熊野交通バスで「湯川温泉」バス停下車し徒歩15分(1.1km)
和歌山県東牟婁郡太地町湯川夏山3830  地図
0735-52-0409

立ち寄り入浴15:00~19:30
300円
ボディーソープらしきものあり、他備品類なし

私の好み:★★★

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