(串本)姫温泉 弘法湯

和歌山県

※本記事は2014年に訪問した時点の内容を記載しています。その後一旦閉鎖されたものの、2022年頃より貸切風呂として営業を再開しています。

 
ひっそりとした佇まいとほのぼのとした雰囲気が南紀を旅する人々を魅了している、串本町の姫温泉「弘法湯」で入浴してまいりました。国道42号沿いの海岸にそそり立つ奇岩の下に、唐様を思わせる鮮やかな緋色に塗られた小さな堂宇があり、それに隣接してこの「弘法湯」が位置してるのですが、湯小屋は国道の下に隠れるように建てられているため、路傍の看板を見逃すとそのまま存在に気づかずに通りすぎてしまいそうです。しかも利用可能日は週4日しかないため、発見できたとしても曜日によっては利用できないんですね。

 
国道沿いの駐車場に車をとめ、その脇から伸びる細い路地を下りて、海老茶色のスレートで葺かれた湯屋へ向かいます。駐車場からは熊野灘の渺茫たる大海原を眺望でき、この時もつい海に向かって両腕を伸ばし、思いっきり深呼吸してしまいました。

  
戸口には立派な扁額がかけられていました。引き戸の左側には料金表が掲示されていますが、入浴料ではなく「入浴協力金」と銘打たれているところに、この湯屋の特徴、つまり「弘法湯」は地域の方々によって運営されている共同浴場であって、営利目的ではないんやで、という意思表示がよく現れているような気がします。

 
戸を開けて中に入りますと、お座敷では当番のおばあちゃんが炬燵に入って北朝鮮情勢を伝えるワイド番組(10chの「ミ●ネ屋」)を見ている真っ最中だったのですが、背後から「ごめんください」と声をかけて協力金を差し出しますと、おばあちゃんは「住所と名前をお願いします」と卓上にノートを開き、私にペンを手渡しました。こちらで入浴する場合には、台帳への記名が求められるんですね。ペンネームでも構わないとのことでしたが、本名と住所を省略せずに記入させていただきました。

座敷の左側にはシンメトリーな造りの浴室が2室あり、両室とも貸し切りで使って良いと仰って下さったのですが、どちらにしようか迷った挙句、今回は左側の浴室を選択しました(特に理由はありません)。両浴室とも脱衣スペースはかなり質素でコンパクト、棚にプラ籠が置かれているばかりで、2人同時に着替えたら若干窮屈かもしれませんが、そのシンプルさやコンパクト感こそ「弘法湯」の魅力なのかと思います。

 
3畳ほどの浴室はモルタル塗りで、上半分はオフホワイト系のペンキが塗られていますが、下半分は無塗装状態となっており、床はスノコ敷き、そして床面積の半分近くを木製の浴槽が占めています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基設置されており、石鹸やシャンプー・コンディショナーも備え付けられていました。なおシャワーのお湯には加温した源泉が使われています。

 
浴槽は1~2人サイズの木造で、木目の通った白木が美しく、コーナーは箪笥みたいに銅の角金具で補強されていました。飾り気の少ないシンプルなお風呂ですが、そこはかとない品の良さが漂っており、共同浴場でありながら、昔の上流階級のお屋敷に備え付けられた浴室を想像させてくれるような、何ともいえない落ち着きと寛ぎの空気感が横溢していました。

 
姫温泉は源泉温度が低いために加温されており、浴槽の上に設けられている2つの蛇口のうち、左側からは加温されたお湯が、右側からは非加温の生源泉が吐出されます。もし湯船が熱い場合は冷たい生源泉で冷ますわけでして、冷温問わず湯船は常に100%源泉で満たされているわけです。また溜め湯式ながら循環消毒などは実施されておらず、湯船に張られた加温湯は、そのまま浴槽から溢れ出て使い捨てられています。おばあちゃんは湯加減を自分の好みに合わせて良いと仰ってくださったので、お言葉に甘えて冷たい蛇口を全開にし、湯船の生源泉率を高めてちょっとぬるめの湯加減で入浴しました(もちろん入浴後は加温湯を注いで温度を元に戻しておきましたよ)。

湯船に体を沈めますと、湯船からザバーっと豪快に音を響かせながらお湯が溢れ出ていきます。窓からは紺碧の海原が望め、実に爽快です。お湯は無色澄明で、湯中では白く細かな浮遊物が舞っています(湯の華だろうと思われますが、浴槽の木の繊維である可能性も否定できません)。桶にぬるい生源泉を溜めて、そのお湯に鼻を近づけてみると、ほんのりとしたタマゴ臭が嗅ぎ取れ、口に含むと弱いタマゴ味が感じられました。同じ南紀の那智勝浦町界隈で湧出する温泉(湯川温泉や勝浦温泉など)に比べるとかなり硫黄感が弱く、より細かく表現すればタマゴ感とともに硫黄が劣化したような砂消しゴムっぽい知覚も混在していたのですが、それもそのはず、分析表を見ますと総硫黄が0.3mg以上0.5mg未満しかありません。このためか、加温湯では硫黄感が更に薄らいでいるように感じられました(加温の際に硫黄ッ気が飛んじゃうのかな)。
匂いや味は薄いものの、全体的にはとてもマイルドでやさしいフィーリングを有しており、入浴中は淡いツルスベ浴感(少々引っかかりも混在)が肌に伝わってきました。質素ながらも品の良さと地元の方のぬくもりが感じられるこの浴場の佇まいに相応しい、大人しく慎ましやかなお湯でした。

 
風呂あがりに、湯屋から更に坂を下って、波打ち際の岩場へ下りてみました。

 
下りきったところには、コンクリの箱が流木に埋もれていました。これは源泉からのお湯を中継する槽かと思われ、側面には小さな穴が開いており、そこからは24.0℃のお湯がピューっとこぼれ落ちていました。

 
中継槽から黒いホースを辿って更に岩場を進んでゆくと、上部からパイプが立ち上がっているコンクリの躯体に突き当たりました。これが姫温泉の源泉なのでしょう。以前は岩から自然湧出していたようですが、現在では旧源泉の傍をボーリングし、毎分66リットルのお湯が自噴しているんだそうです。このコンクリ躯体の裏手にはコンクリの小さな槽のようなものがあり…

 
その内側では無色透明の鉱泉が自然湧出しており、鉱泉の流路では白い湯の華がユラユラしていました。参考までにこの鉱泉の温度を測ってみると、21.1℃と表示されたのですが、先程の中継槽より上流側にあるにもかかわらず温度が低いということは、コンクリ躯体の内部で自噴してる現行の源泉とこの自然湧出源泉は別物なのでしょうか。あるいは、外気に晒されたり天水が混入することによって温度が下がっちゃうのでしょうか。

 
そればかりでなく、コンクリ躯体の周りには明らかに人工物と思われる構造物跡が点在していました。穴はボーリング作業する際の櫓の跡でしょうけど、枡状のものは一体何なんだろう? 


自然湧出した源泉は海へと流れており、岩場の一部は湯の華によって白く染まっていました。海へ流出している量は結構多いので、夏にここへやってきて、この鉱泉をビニールプールに溜めたら、さぞかし気持ち良いでしょうね。なお湧出したばかりの鉱泉は、お風呂より硫黄感が若干強めに感じられました。なお姫温泉は波打ち際で湧出しているにもかかわらず、塩ッ気が全くありません。お湯がストックされている地下から断層などを伝って、海水の影響を受けることのないまま湧出しているのでしょうね。

アルカリ性単純温泉 27.0℃ pH9.5 17.0L/min(掘削自噴) 成分総計0.170g/kg
Na+:42.4mg, Ca++:3.9mg,
F+:10.2mg, Cl-:19.2mg, OH-:0.5mg, HS-:0.1mg未満, S2O3–:0.3mg, SO4–:4.8mg, HCO3-:37.5mg, CO3–:12.3mg,
H2S-:0.1mg未満,
加温あり(入浴に適した温度を保つため)

JR紀勢本線・紀伊姫駅より徒歩12分(1.0km)
和歌山県東牟婁郡串本町姫572  地図

※本記事で紹介した施設としては一旦閉鎖されたものの、2022年頃より貸切風呂として営業を再開しています。詳細はこちらをご覧ください

13:30~19:30 毎週月・水・金定休
400円
石鹸・シャンプーあり、他備品なし

私の好み:★★

コメント

  1. さらら より:

    Unknown
    ここのレビューを見て
    和歌山県民にも関わらず全然知らなかったので色々と訪れさせて貰っています。
    今年の5月位に行ってみました。
    本当に民家みたいな作りで驚いてしまいました。
    昼に行ったので利用客は自分だけでしたがその分番台さんとも長く話せて色々な事を知れたし、一人で贅沢に使用出来ました。
    その時番台さんが「体悪いから今年で終わるかも」と言っていました。
    先週通りがかったのですが駐車場にロープが張られ、看板の営業時間の表記は黒のペンキで無理潰され、電話番号にかけても繋がらなくなっていました。

    寂しいですが良い体験が出来たので行けて良かったです。

  2. さらら より:

    Unknown
    ここのレビューを見て
    和歌山県民にも関わらず全然知らなかったので色々と訪れさせて貰っています。
    今年の5月位に行ってみました。
    本当に民家みたいな作りで驚いてしまいました。
    昼に行ったので利用客は自分だけでしたがその分番台さんとも長く話せて色々な事を知れたし、一人で贅沢に使用出来ました。
    その時番台さんが「体悪いから今年で終わるかも」と言っていました。
    先週通りがかったのですが駐車場にロープが張られ、看板の営業時間の表記は黒のペンキで無理潰され、電話番号にかけても繋がらなくなっていました。

    寂しいですが良い体験が出来たので行けて良かったです。

  3. K-I より:

    Unknown
    さららさん、こんにちは。
    あのアットホームな雰囲気に心を掴まれる方も多かったのではないかと思います。かく言う私もその一人。小さな湯屋ですが思い出は大きく残っています。
    残念ながら今年の春で閉鎖されてしまったようですね。建物は来年度に取り壊すとのこと。とても残念です。
    http://koubouyu.boo.jp/
    コメントをお寄せ下さりありがとうございます。

  4. K-I より:

    Unknown
    さららさん、こんにちは。
    あのアットホームな雰囲気に心を掴まれる方も多かったのではないかと思います。かく言う私もその一人。小さな湯屋ですが思い出は大きく残っています。
    残念ながら今年の春で閉鎖されてしまったようですね。建物は来年度に取り壊すとのこと。とても残念です。
    http://koubouyu.boo.jp/
    コメントをお寄せ下さりありがとうございます。

  5. さらら より:

    Unknown
    看板はこんな感じになっていました
    宜しければお使いください
    それではまた
    https://imgur.com/a/LwaLLMK

  6. さらら より:

    Unknown
    看板はこんな感じになっていました
    宜しければお使いください
    それではまた
    https://imgur.com/a/LwaLLMK

  7. K-I より:

    Unknown
    >さららさん
    画像ありがとうございます。
    たしかに黒く塗りつぶされていますね。残念です。

  8. K-I より:

    Unknown
    >さららさん
    画像ありがとうございます。
    たしかに黒く塗りつぶされていますね。残念です。

  9. さらら より:

    Unknown
    すみません。
    先月通りかかったら、看板が綺麗になっていて
    貸し切り限定の施設として復活したみたいです。
    詳しくはhttps://www.town.kushimoto.wakayama.jp/kanko/kushimoto/kobo-no-yu.html
    こちらから確認お願いします。

  10. さらら より:

    Unknown
    すみません。
    先月通りかかったら、看板が綺麗になっていて
    貸し切り限定の施設として復活したみたいです。
    詳しくはhttps://www.town.kushimoto.wakayama.jp/kanko/kushimoto/kobo-no-yu.html
    こちらから確認お願いします。

  11. K-I より:

    Unknown
    さららさん、返信が遅くなり申し訳あございません。
    嬉しい続報をありがとうございます。
    今のご時世、貸切で利用できるのは嬉しいですね。当地へ行く機会があれば、利用してみたいと思います。

  12. K-I より:

    Unknown
    さららさん、返信が遅くなり申し訳あございません。
    嬉しい続報をありがとうございます。
    今のご時世、貸切で利用できるのは嬉しいですね。当地へ行く機会があれば、利用してみたいと思います。

  13. さらら より:

    Unknown
    返信ありがとうございます。
    是非とも機会がありましたらお越しください。

  14. さらら より:

    Unknown
    返信ありがとうございます。
    是非とも機会がありましたらお越しください。

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