八甲田温泉 ぬぐだまりの里(旧遊仙) その1「龍神の湯」

青森県

 
拙ブログでリンクを張っておりますプンタさんの「マーク★プンタのトド寝大好き」を拝見していたところ、八甲田温泉「ぬぐだまりの里」(旧称「遊仙」)に今年(2014年)6月10日オープンした新浴場棟「龍神の湯」が実に素晴らしいと絶賛なさっていたので、これは是非行かねばならないと心に決め、所用で津軽地方へ出かけたついでに、当地へ足を伸ばしてみることにしました。

 
玄関に下げられている旧遊仙時代の提灯は以前のまま。その脇に括りつけられている郵便ポストは、オブジェなんかじゃなく、平日と土曜の12時にちゃんと郵便局の方が取集にやってくる現役のポストなのですが、長年に亘って八甲田の厳しい風雪に叩きつけてきたからか、至るところが錆びて痛々しい姿を呈していました。

 
フロントの券売機で料金を支払い、浴場へと向かいます。今回は新設の「龍神の湯」と一昨年から既に営業している「らむねの湯」の双方を利用したかったので、両方に入れる料金1000円を支払いました。青森県の温泉入浴料金としてはかなり高い料金設定ですが、後述するようにその額でも決して後悔しません。
フロントから長い廊下を歩いた突き当りでスリッパから屋外用ツッカケに履き替え、右へ進むと次回取り上げる「らむねの湯」、左へ進むと新設の「龍神の湯」です。八甲田の豪雪にも耐えられるように裾の長い屋根は三角形に尖っており、その屋根の大きさから浴室内の空間が相当広く高く確保されていることが想像されます。

 
中には花が活けられた無人の小さなカウンターがあり、その先に紺と紅の真新しい暖簾が下がっていました。


まだ木の香りが漂う脱衣室は、オープンして1ヶ月にも満たないため、どこもかしこもピッカピカ。ロッカーやドライヤーなど基本的な備品はもちろんのこと、大きな業務用送風機が2台も用意されており、湯上り後の火照った体をパワフルに冷却してくれます。

 
戸を開けて浴室に踏み入れた途端、八甲田で伐り出された木材をふんだんに使った重厚感溢れる佇まいに圧倒されてしまいました。近年建てられた浴場で、ここまで木材を贅沢に用い、荘厳な雰囲気を醸し出している施設は他にどれだけあるでしょうか。とりわけ室内の中央で高い屋根を支えている太い柱は、樹齢200年以上・長さ10メートル超というナラの巨木を、山の中で立っていた頃を彷彿とさせる格好で屹立しており、おとなが数人手をつないでようやく円周を囲えるほど太く高い柱を見上げていると、畏怖すら覚えます。こうした造りのお風呂は、新築ならではの清々しさも良いのですが、長い年月が経って貫禄を帯びてくると、よい一層味わい深くなりそうです。

 
硫化水素を多く含むお湯の湯気が立ち込めるためか、釘などの金属類の使用は最低限にとどめる宮大工の工法を採用しているんだそうでして、高い天井を見上げると、立派な梁や柱がしっかりとホゾ継ぎされていました(補強用の火打ち梁を除く)。
なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が8基設置されており、シャワーからは真湯が吐出されます。新しい施設だけあって、シャワーの圧力もお湯が出るスピードも全く問題ありません。


内湯には浴槽が2つあり、プールみたいにバカでかいのが主浴槽。いつもの私でしたらここで浴槽のキャパに関して「●●人サイズ」なんて表現しますが、あまりに大きくて容量を測るのがバカバカしくなっちゃいました。しかも広大なのに下品な感じがせず、どこにいても木のぬくもりと薄暗い落ち着きのある雰囲気に包まれ、とても心地が良いのです。素晴らしい!

 
主浴槽の湯口では石の壁に這わせて熱いお湯を冷ましており、こうした手法は以前に拙ブログでも紹介した宮下温泉「ふるさと荘」など、各地の温泉施設で偶に見られます。開業してまだ間もないのに、早くも石の表面は温泉成分の付着によって赤茶色に染まっていました。このお湯は7号泉と称される源泉と思われ、橙色を帯びた山吹色に強く濁り、湯中では橙色の細かな湯の華がたくさん浮遊しています。加水を避けるために上述のような投入方法を採っているのでしょうけど、それでも湯加減はやや熱めでした。

 
柱や梁だけじゃなく浴槽も総木造で、長い縁も一本の太い木から取られた材木が使われており、綺麗に鉋掛けされた表面は、お湯をキラキラ輝かせて実に秀麗。天然木ならではの柔らかで優しい肌触りも、湯浴み客の心を落ち着かせてくれます。浴槽のお湯は縁の切り欠けから惜しげも無く大量に溢れ出ていました。

 

内湯で特筆すべきは、上述のプンタさんがブログで絶賛なさっていたこの小さな浴槽です。山吹色に濁った熱めのお湯が張られている主浴槽と異なり、こちらにはミルク湯と称されている白濁系のぬる湯が注がれています。真ん中に細い筋が入った卑猥な形状の湯口からトポトポと源泉が注がれ、お湯が排出される浴槽縁の切り欠けは純白に染まっていました。お湯は灰白色に濁り、酸性明礬泉的な収斂味と炭酸味、そして噴気孔のような刺激のある硫黄臭が感じられました。そして入浴中の肌には細かな気泡がびっしり付着しました。温度は35~6℃という不感温度帯ゆえ、入りしなはちょっとぬるすぎるように感じるかもしれませんが、一度肩まで浸かっちゃうと言葉では表現できないほどの爽快感に包まれ、気泡の付着も相俟り、まるでお湯に魂を奪われたかのように湯船から出られなくなってしまいました。そして徐々に瞼が重くなってゆきました。まさに微睡みの湯。暑い夏に入ると誰しもがこのお湯の虜になること請け合いです。


重厚感と落ち着きの内湯には驚かされましたが、この度新設された露天風呂にもビックリ。八甲田の山を背景にして据えられたこの大きな露天風呂は、青森県屈指の規模ではないでしょうか。周囲には目隠しの塀が立てられていますが、敷地全体が広い上に塀が浴槽からかなりセットバックされており、しかも周囲には雄大な八甲田の大自然が広がっているため、塀の存在なんかちっとも気になりません。東北の山々の懐の深さを実感できる爽快な露天風呂です。

 
露天も浴槽は2つに分かれており、小さな方(といっても14~5人は同時に入れそうな大きさ)には内湯の主浴槽に張られていた7号泉のお湯がドバドバ注がれ、ザブザブ音を立てて溢れ出ています。外光の影響で内湯とは若干異なる色合いを呈しており、具体的にはやや赤みを帯びつつもモスグリーン系の色調も含まれる暗めの山吹色に強く濁っていました。金気を含むものの主張はやや控えめで、土類感、特に石膏感やそれに伴う甘みがはっきり感じられました。何しろ鮮度感が抜群で、ちょっと熱めとはいえ、いつまでも入っていたくなる素晴らしいお湯でした。


その隣の大きな浴槽は、小さな方の1.5倍はありそうな広大なもので、内湯のミルク湯に似た感じのお湯が張られています。底は細かな砂利を均して固めたような造りになっており、歩いた時に足裏に伝わる感触が快適でした。また真ん中に腰掛けが設置されており、一休みしたいときに実に便利でした。

 
湯船には白い懸濁を呈するお湯が張られており、30℃台後半のぬるい湯加減でした。内湯のミルク湯と同じかと思いきや、よく神経を研ぎ澄ますと、ちょっと個性が異なっているようにも感じられます。切り欠けから溢れ出ている他の槽と異なり、この槽は底から立ち上がっているオーバーフロー管より排出されており、その吸い込み口の位置がやや低めに設けられているため、この露天風呂は全体的に浅くなっており、寝そべる感じで浸かると、肩まで浸かれる上に塀を気にせず山々の景色を一望できました。ぬるめのお湯ですから、避暑目的で入ると最高です。内湯のミルク湯とこの広大な露天風呂で、恍惚感に満ちた時間が過ごせました。青森県の温泉施設は休廃業が相次いで暗雲立ち込めるばかりですが、この度オープンした「龍神の湯」は、青森県の温泉界(そして八甲田の観光)に希望の光をもたらすブリリアントなお風呂だと言えましょう。あっぱれ!

八甲田温泉7号泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 64.5℃ pH6.99 溶存物質1.651g/kg 成分総計1.720g/kg
Na+:210.8mg(46.46mval%), Mg++:37.1mg(15.45mval%), Ca++:119.8mg(30.30mval%),
Cl-:61.7mg(9.18mval%), SO4–:600.2mg(65.92mval%), HCO3-:286.3mg(24.74mval%),
H2SiO3:268.8mg, CO2:69.2mg,

八甲田温泉(ミルク)
酸性・含二酸化炭素・硫黄-カルシウム・アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型) 35.9℃ pH2.49 溶存物質1.864g/kg 成分総計3.133g/kg
H+:3.3mg(11.68mval%), Na+:30.3mg(4.71mval%), Mg++:25.7mg(7.54mval%), Ca++:266.9mg(47.59mval%), Al+++:68.6mg(27.26mval%),
Cl-:266.6mg(26.84mval%), S2O3–:0.5mg, HSO4-:102.5mg, SO4–:919.0mg(68.30mval%),
H2SiO3:151.8mg, CO2:1256mg, H2S:12.7mg,

八甲田温泉
酸性・含硫黄-カルシウム・アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型) 39.8℃ pH2.42 溶存物質2.349g/kg 成分総計2.903g/kg
H+:4.4mg(12.31mval%), Na+:46.6mg(5.72mval%), Mg++:37.3mg(8.65mval%), Ca++:304.9mg(42.86mval%), Al+++:94.1mg(29.47mval%),
Cl-:337.5mg(26.90mval%), HSO4-:169.0mg, SO4–:1150mg(67.64mval%),
H2SiO3:173.3mg, H2SO4:1.9mg, CO2:545.4mg, H2S:7.8mg,

その2「らむね湯(再訪)」へ続く

コメント

  1. プンタ より:

    Unknown
    日本全国の温泉を知り尽くすK-Iさんが絶賛してくれると箱が付きます!
    自分の手柄じゃないのに、なんでこんなに嬉しいのだろう(地元愛!?)
    (;゜д゜)ァ…. 私は遊仙の回し者じゃありませんからね(笑

    K-Iさんもミルクに魂を奪われましたか(笑
    先日訪問した時も、皆さんもれなく口半開き状態で天を仰いでました(笑
    どんな美男美女でも、あのお湯に浸かっている時の表情は見たくないかも!?(笑

    いろいろな要素が一箇所に詰まりすぎてしまい~湯巡り意欲の壁になってしまたのがちょっとした悩みです。
    一箇所で全て事が足りすぎるのも問題かも!?(^^;

  2. K-I より:

    Unknown
    プンタさん、こんばんは。
    回し者でなくとも、あのお風呂は絶賛したくなりますね。
    ミルク湯に魂を奪われているときは、幽体離脱していたような気がします。マヌケな惚け顔の自分を上から己が目で見ましたから(^^)
    と同時に、わが脳みそは常に邪念と煩悩と打算で支配されているため、このお風呂の建築になんぼジェンコが掛かったんだべかと、算盤を弾こうとしたこともここで告白いたします。

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