(2023年9月訪問)
鳴子温泉郷の中心である鳴子温泉地区は江合川の南側(右岸)に温泉街が形成されていますが、北側(左岸)にも僅かながら施設があり、その中のひとつが今回取り上げる「村本旅館」です。かつては近所に「福の湯」という施設もあって拙ブログでも取り上げたことがありますが、残念ながらこの「福の湯」は閉業してしまいましたので、「村本旅館」は川の北側で客を受け入れる貴重な存在です。なお今回は日帰り入浴での利用です。
一見すると普通の民家と見まがいそうな母屋(上画像)の玄関で入浴したい旨を伝えますと、宿の方が一旦お風呂の状況を確認した上で利用を受け入れてくださいました。お風呂は別棟にあります。
母屋の向かいにあるこちらが湯屋です。男女別のお風呂で出入口が分かれており、男湯は左側から入ります。
こちらが浴室です。お風呂は内湯のみで、木造の浴室に浴槽が一つ据えられているだけのシンプルな構造ですが、浴槽も床も温泉成分の析出がコッテコテにこびりついており、この温泉は只物ではないことがビジュアル的に伝わってきます。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が2つ。
浴槽に張られたお湯はほぼ透明ですが、浴槽内の側面はトゲトゲ、オーバーフローが流れる縁まわりは千枚田、そしてお湯と空気が触れ合う浴槽の湯面ライン上はサルノコシカケ状態というように、部位にそれぞれ異なる形でカルシウムの析出が分厚く付着しています。なお浴槽のサイズは3人ほどでしょうか。
千枚田状態の析出をアップで撮ってみました。この造形はもはや芸術の領域ですね。
空気が触れることにより析出が発生して詰まってしまうことを防ぐためか、温泉の湯口は筒によって底面まで伸ばされていますが、漏れた温泉によって筒の横には垂乳根状態の析出がこびりついていました。
訪問時は湯船がかなり熱かったので加水させてもらいましたが、湯使いは言わずもがな完全かけ流し。お湯自体はほぼ無色透明ですが、湯中ではカルシウム分の結晶と思しき微細な浮遊がわずかに見られます。匂いはあまり無いものの弱い石膏味を有しており、湯船に肩まで浸かるとやや引っかかる浴感とスルスベ浴感が拮抗して肌に伝わりました。おそらくカルシウム分と重曹の両方の特徴が表れているのでしょう。加水させていただいたとはいえ、過度な加水はお湯の持ち味を打ち消してしまうため、入浴できる湯加減で水を止め、少々熱めの湯加減で入浴したところ、熱さによるピリッとした刺激が心身をシャキッとさせ、お湯の良さも相俟って大変気持ち良い湯あみを楽しめました。熱いお湯で体をヒリヒリさせながら、温泉が生み出した石灰質の造形を眺めて、かけ流しのお湯の持ち味を堪能する幸せは、こうした質素な温泉旅館のお風呂ならではの醍醐味と言えましょう。
町有末沢源泉
ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉 59.7℃ pH6.9 蒸発残留物1521mg/kg 溶存物質2008.2mg/kg
Na+:308.8mg(53.00mval%), Mg++:27.5mg, Ca++:184.4mg(36.31mval%),
SO4–:391.5mg(340.3mval%), HCO3-:852.9mg(58.57mval%),
H2SiO3:155.7mg, CO2:233.0mg,
(平成20年12月5日)
加水加温循環消毒なし
宮城県大崎市鳴子温泉末沢西17−3
0229-83-4055
日帰り入浴時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカーなし
私の好み:★★★
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コメント
Unknown
村本旅館さんのお風呂、良いですよね。
あんな小さな浴室なのに物凄く強烈な個性を漲らせてますもの。
初めてあのコテコテの析出物を見たとき、私は狭い浴室内で小躍りしそうになる衝動を必死で堪えました。
特に今では木枠で覆われてますけど湯口から垂れ下がったドロドロ、今思い出しても恐怖の造形です。
木枠を突き破ってエイリアンの触手がいつ襲いかかってくるかもしれない、なんて妄想はこの狭い浴室内でしか体験できませんから。
泉質の素晴らしさを感受しつつも、SFホラーに想いが迷走する複雑怪奇な湯浴みができるのはここだけ。
村本旅館さん。バラエティーに富んだ鳴子温泉郷の中でも、インパクト屈指の浴室です。
Unknown
中央構造線さん、こんにちは。
私は析出を見た途端に声が出て小躍りしちゃいました。お風呂でSFホラーの妄想とは、温泉マニアならではですね。お気持ちわかります。温泉を五感で楽しむのでしたら、こちらのように温泉成分がビジュアル的に伝わってくるようなお風呂は視覚的興奮が得られ、満足度も高まります。いつまでも続けてほしいと願うお宿のひとつです。