前回記事に引き続き十和田大湯温泉を取り上げます。今回スポットライトを当てるのは「下の湯共同浴場」です。私が訪れたのは2015年晩秋の夜8時過ぎでしたが、田舎は夜が早いためか、この時間帯になるともう利用客のピークは過ぎているようであり、先客はいたもののあまり混むことはなく、他の方々を気にせず利用することができました。湯屋の前には軽自動車なら3台ほど駐められそうな駐車場が用意されています。
出入口は男女に分かれており、その両出入口の間に券売機が設置されていました。これで入浴券を購入し、出入口を入った内側にいる番台のおばあちゃんに券を手渡します。
湯屋の目の前には源泉井と思しき小屋がありました。いまから入るお風呂には、おそらくこの源泉で湧いたお湯が引かれているのでしょう。
また、付近に立つ「薬師神社参道入口」の柱には、下の湯の関する歴史が記されており、これによれば下の湯地区では、室町時代の文明年間に共同浴場が設けられ、幕末の頃には南部藩専用の御留風呂が立っていたんだそうです(秋田県域の殆どは江戸時代に久保田藩領でしたが、鹿角一帯だけは南部藩領でした)。長い歴史を有する温泉であることがわかります。
いかにも共同浴場らしく脱衣室は飾り気が無くシンプルなのですが、地域住民向けの案内が直書きされるのか、室内には黒板が取り付けられていました。また括り付けの棚はなぜかひとつ一つの枠が小さく、着ぶくれするような季節でしたら、枠が2つ欲しくなるほどコンパクトなものでした。こうした黒板や棚といった画像だけ見ていると、まるで昔の学校の教室みたいですね。
浴室も一見すると実用一辺倒で地味なつくりなのですが、足元には十和田石のタイルが採用されており、足裏から伝わる感触は、共同浴場とは思えないほど上質でした。男湯の場合、右側に浴槽が据えられ、左側に洗い場が配置されています。洗い場には水道とお湯の水栓ペアが3組取り付けられており、お湯の水栓からは激熱の温泉が吐出されました。
全面タイル張りの浴槽は、縁に水色タイル、槽内にうぐいす色タイルが採用されており、仕切りによって大小に2分割されています。小は3人サイズで、大は6~7人サイズ。双方にお湯を吐出する水栓が取り付けられており、いずれからも熱々のお湯が注がれていました。そして各水栓の下は、熱いお湯によって焼けてしまうのか、元のタイルの色がわからなくなるほど赤茶けていました。
一般的に、このように浴槽が分割されている場合は湯加減に差を設けたり、あるいはどちらか一方に何らかの機能を付帯させるものですが、私が利用した時、こちらのお風呂の大小両槽には特にこれといった差異は無く、どちらも(私の体感で)46℃近くはありそうなアツアツのお湯が張られていました。ただ最混雑時を過ぎたばかりの湯船は若干鈍っており、お湯はいくらか靄がかかっているように見えました。
湯使いは完全放流式であり、浴槽を満たしたお湯は脱衣室側の切り欠けから溢れ出し、ケロリン桶が載っかった樹脂製の柔らかいグレーチングの下を流れて排水されています。
お湯は無色透明でほとんど匂いは嗅ぎ取れませんが、口に含むと微かに塩味が感じられます。上述したように私の訪問時は、湯船のお湯が若干濁り気味でしたが、新鮮な状態でしたらクリアに澄み切っているものと思われます。大湯温泉のお湯はどの源泉も熱いのですが、この下の湯も同様であり、先客の方々が加水してくれたにもかかわらず、湯船は45~6℃近くありそうなほどのアツアツ状態で、熱い風呂に慣れているはずの地元の方ですら1分と浸かっていられず、それゆえお客さんの回転が早く、みなさん体を洗った後は、烏の行水であっという間に出ていかれました。熱いお風呂が苦手な方は湯船に足すら入れられないかもしれませんが、熱いお湯に入るのが日常である当地の入浴文化を知るには良い浴場なのかもしれません。
下の湯
ナトリウム-塩化物温泉 58.8℃ pH7.9 溶存物質1.60g/kg 成分総計1.60g/kg
Na+:461.2mg(84.18mval%), Ca++:63.4mg(13.26mval%),
Cl-:731.7mg(87.57mval%), SO4–:132.5mg(11.71mval%),
H2SiO3:104.9mg, HBO2:81.1mg,
(平成19年5月29日)
加水加温循環消毒なし
秋田県鹿角市十和田大湯字下ノ湯13 地図
21:00まで
180円
備品類なし
私の好み:★★
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