※この記事は2015年11月に訪問した際の記録です。残念ながら現在は閉館しています。
岩木山腹には温泉地が点在しており、佇まいや泉質は場所によって様々です。白濁の硫黄泉と甘いトウモロコシで有名な嶽温泉は、週末になると観光客で賑わいますが、そこからわずか数百メートルしか離れていない湯段温泉は、数軒のお宿が頑張って営業しているものの、週末でも観光客は見られず、特に集落の奥にある昔からの宿は営業しているのか判然としないほど影の薄い斜陽な温泉地の典型例です。今回訪れた「静明館」もそんな営業の有無がわからない宿のひとつであり、開いている時もあれば閉じている時もあるらしく、ここで入浴できるかどうかは運任せとなるようです。私が訪れた時は営業していたので、お邪魔することにしました。
ちなみに、お隣の「長兵衛旅館」は数年前に廃業してしましたが、建物は雪に潰れてしまい、いまでも無残な姿を晒しています。
玄関を入ると、すぐ目の前の廊下にお婆ちゃんが座っていたので、直接湯銭を手渡しました。お婆ちゃんは訛りが強くて何を喋っているのかさっぱりわからなかったのですが、後ろの方に料金の張り紙が掲示されていたため、ヒヤリングに頼らなくとも手渡す金額を間違えることはありませんでした(なんだか海外で旅行しているみたいですね)。玄関には手書きの効能書きが貼り出されており、良い味を醸し出しています。
廊下を曲がって浴室へ。いまでは宿泊客を取っておらず、入浴営業のみなんだそうですから、お客さんが通れる廊下は、玄関と浴場を結ぶこの区間だけなのでしょう。
4畳あるかないかという狭さの脱衣室には、棚と腰掛けがあるだけ。片隅には小さなシンクが置かれているものの、排水できるだけで水は出ません。歩く度にどこかしら音が鳴るガタピシの建物は、相当老朽化が進んでいるようです。
湯段温泉で昔から営業している宿はどこもお風呂が小さく、旅館というより湯治宿といった色合いが強いように思われます。こちらのお風呂も4畳半程度の広さしかなく、スノコ敷きの室内には1〜2人サイズの小さな湯船がひとつあるばかり。備え付けの用具は、窓枠に置かれた小さな鏡と風呂桶が一つずつ、そして石鹸だけ。スノコも痛みが激しく、部分的に苔が生え、端の方は腐りかけてベコベコになっており、実際に軽く踏み抜きそうになりました。
壁から突き出たパイプからお湯が注がれており、吐出温度は41.8℃でした。
温泉に含まれる鉄分にバクテリアが反応したのか、入室時の湯面には酸化被膜が浮かんでいました(左or上画像でアブラのように浮かんでいるもの)。浴槽は縁が丸タイルで浴槽内はレンガ色の四角い豆タイルですが、長年に及ぶ温泉成分の付着により、元々の色や形状がわからなくなっており、ベージュ色のコーティングされた表面はサンゴのような凸凹やトゲトゲで覆われていました。
お湯の中ではオレンジ色の湯の華が無数に沈殿浮遊しており、桶でお湯を掬っても、湯船を直接目視しても、その多さには驚かされます。
湯船に入る前のお湯は、貝汁濁りを呈しているものの槽内を目視できるほどの透明度がありましたが(左or上画像)、私が湯船に入ると沈殿していた湯の華が一気に掻き混ぜられ、たちまち透明度がほとんど無くなるほど強いオレンジ色に濁りました。湯段温泉には他施設でも入っていますが、ここまで濁ったのは初めての体験かもしれません(もしかしたら長い期間にわたって湯抜き清掃していないのかも)。
湯口で41.8℃だったお湯は、湯船では40.5℃まで下がっていました。加水加温循環消毒無しの完全掛け流しなのですが、11月上旬でこの温度まで下がってしまうのですから、冬になるともっとぬるくなってしまうかもしれませんね。でもいつまでも入っていたくなるような温度でしたから、他に誰もお客さんが来ないのを幸いに、ちょっと長湯させてもらいました。
引いているお湯は6号源泉であり、以前拙ブログで取り上げた同温泉の他旅館(「新栄館」や「ゆだんの宿」など)と同じです。薄塩味と薄出汁味、弱い金気感と土類感、清涼味、そして少々の炭酸味が感じられ、肌の皺に染み込みつつもキシキシと引っかかるような浴感が得られ、湯上がりには全身に微細な粉をまぶされたような独特な感触が残りました。またぬるいお湯にもかかわらず、お風呂から上がった後には体の芯からしっかりと温まり、長時間にわたってホコホコが持続しました。
昔ながらの湯治宿風情が実に味わい深い、わかる人にはわかる通向けのお風呂でした。
湯段温泉組合6号泉
ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 44.4℃ pH7.2 155L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質3.007g/kg 成分総計3.454g/kg
Na+:486.0mg(44.10mval%), Mg++:169.7mg(29.14mval%), Ca++:229.6mg(23.91mval%), Fe++&Fe+++:0.8mg,
Cl-:787.8mg(53.99mval%), Br-:1.0mg, SO4–:302.9mg(15.33mval%), HCO3-:767.7mg(30.57mval%),
H2SiO3:193.6mg, HBO2:15.3mg, CO2:447.3mg,
(平成27年6月30日)
青森県弘前市常盤野湯段萢28-1 地図
0172-83-2150
残念ながら現在は閉館しています
入浴可能時間6:00〜20:00(観光協会ではこの時間が案内されていますが、実際にはこの時間に営業しているとは限りません)
250円(岩木山観光協会の湯めぐり手形は使用不可)
備品類無し
私の好み:★★
コメント
有るうちに入っておきたいですね
いつも楽しく拝見しております。
2年前に立ち寄り湯させていただきました。
30分程の入浴で帰りかけたところ、宿のおばあさんに「もう上がったの、時間をかけてあたたまっていきなさい」と声を掛けられ、暫く話し込みました。
その当時はまだ常連客が素泊まりで泊まりに来るとの話でしたが…、いつまで湯段温泉自体が続いて行くのでしょうか。
昨日から秋田、津軽を湯巡り中です。
某有名野湯に初めて行きましたが、トラロープに「立ち入り禁止」の札が掛かっており、国有林故、許可なく立ち入り禁止との立て札も。
途中のダートにも立ち入り禁止のロープが張られ(営林署が伐採で入っていたので、たまたま開放していたのかも)、以上ご報告まで。
今夜は梅沢温泉泊です。
Unknown
ポットライフさん、こんばんは。
梅沢温泉にお泊りですか。さすが宿の選び方がマニアックですね♪
湯段温泉でも手前側のお宿は頑張っていますが、昔からある奥の方は、1軒はすでに(物理的にも)潰れていますし、他も青色吐息な状況ですよね。おっしゃるように、いつまで続いてくれるか、心配になっちゃいます。
>某有名野湯
いつの間にやらそんな事態になっていたとは…。
お知らせくださってありがとうございます(ちょっと言葉を失ってしまいました…)。
寂しい湯段
私が直接確認したわけではありませんが
静明館は久しく営業していないとの事
廃業かどうかはわかりかねますが・・・
やっぱあるうちに入っておけですね
Unknown
へすさん、こんばんは。
実は私もそんな噂をどこかで目にしました。冒頭で但し書きを付したのも、そんな理由からでした。まだ確定したわけではありませんが、思い出がどんどん消えていってしまうようですね。
おっしゃるように、あるうちに入っておかないと後悔しますね。いままでも「次回でいいや」と先送りにして後悔したことが何度あったことやら…。
Unknown
こんばんわ^^。
この記事を読んでいて、やはり寂しい気持ちになりました。
これほどの素晴らしい温泉宿でも、寂れてしまうのですね・・・。
画像を拝見する限り、湯温も最適、効能もありそうで、
こんな温泉が地元にあればたちまち繁盛するはずですよ。
残念な限り。地方の情勢は厳しいのですね、、、。
そう言えば、先日 万座ホテル聚楽へ行って来ましたが、
お風呂のドアには大きな張り紙がしてあり、
「撮影禁止」の文字がありました。軽くショックでした(苦笑)
何か問題があったのでしょうかね、、、。
相変わらず、お湯は良く、食事も良かったです。
来月にも修善寺に行って来ます。私も頑張りますよ^^b
Unknown
ぬる湯マスターさん、こんばんは。どんな良い温泉でも、時代の流れには勝てないのかもしれませんね。青森県では私好みの温泉がここ数年で次々に過去帳入りしているので、本当に寂しい限りです。
>万座ホテル聚楽
最近そのような対応をとる施設が増えてきたようですね。もしそのような流れを作る一因として、拙ブログのような存在が挙げられるのならば、このブログもそろそろ潮時かな、なんてボンヤリ思いつつあります(もちろん、まだそのつもりはありませんが)。
>来月にも修善寺に
おお、そうなんですか! 私はつい先日西伊豆へ行って、のんびりしてきました。おかげさまで少しずつ湯めぐり意欲を取り戻しつつあります。
Unknown
閉鎖してましたね。今は一軒しか立ち寄り湯してないみたいです。寂しい限りです。
Unknown
マックさん、こんにちは。
拙ブログのINDEXでは既に【閉館】と書いていたのですが、本記事ではその記載が漏れていましたので、本日中に訂正いたします。ご指摘ありがとうございます。
湯段はどんどん寂しくなる一方ですね。辛うじて営業を続けているお宿がありますが、津軽湯ノ沢みたいなことにならないことを祈るばかりです。