下風呂温泉 旅館さつき荘

青森県


まるほん旅館の女将に「湯めぐりするなら、ここは外せません」と薦められて、さつき荘さんに入浴をお願いしてきました。

 
階段上がって廊下を進んだ突き当たりの引き戸を開け、一旦外に出て右側にある小屋の扉を開けると、そこが湯屋。お風呂はひとつしかないようで、実質的に貸切状態で利用することになります。


掘っ立て小屋のような湯屋で、屋根が低く、あちこち痛んでいます。ご主人曰く、金具などがすぐに腐食してしまうんだとか。オール木製の浴室と湯船。カランは一組だけ。浴室に入った途端、ぷーんと鼻を突く硫黄の匂いに思わず欣喜雀躍。


湯船に張られたお湯はやや熱めですが、ちょっと我慢すれば入れちゃいました。でも人によっては水で薄めなきゃダメかもしれません。このお湯が実に不思議。はじめ見たときは乳白色の濁りなのですが、足をお湯の中に入れると、底の沈殿が攪拌されてどんどん黒く濁ってゆくのです。やがて白濁と黒色濁りが拮抗してかなり濃い灰色濁りに落ち着き、その透明度は10cmもないほどです。湯口付近に体を沈めると、付近の湯中を舞う沈殿の固形物が肌に当たる感触を実感できます。ツルツルスベスベの気持ちよい浴感です。お湯をしばらく静かにさせておくと、湯面にホウ酸らしき白い膜が浮くのも特徴的です。


口に含むと、塩味+出汁味+タマゴ味+口腔にしぶとく残る強い苦味&渋み+焦げたようなアブラっぽい味、それぞれが複雑に交じり合った味でした。下風呂は基本的に硫化水素型の硫黄泉ですが、海岸に近づくにつれて海水の影響を受けやすくなり、海辺が源泉であるさつき荘さんの場合は、それが明瞭な塩味や苦汁の味としてはっきり出ているわけです。遊離二酸化炭素が607.9mg/kg、遊離硫化水素が55.2mg/kgというように溶存ガスが多いのも面白いところです。また同じ下風呂でも、大湯ではpH2.4という酸性泉の特徴を示していながら、ちょっと下った海岸沿いのこちらではpHが5.8とかなり中性に近づいており、その僅かな距離の間に海水が影響を及ぼして泉質を思いっきり変えちゃっていることが想像できます。

入浴後、この宿のお婆ちゃんとお話しする機会を得たのですが、濁ると黒っぽくなるこちらのお湯は、かつては墨汁のように真っ黒だったそうです。そればかりか、今は埋め立てられてしまいましたが下風呂の海岸に広がっていた砂浜も黒かったんだとか。穴を掘ればお湯が湧いてくるような浜だったそうですが、つまりここの砂には砂鉄が多く、これに温泉の硫黄が反応して黒い硫化鉄となったんでしょうね。さつき荘の源泉も元々は干潮時に現れていたもので、いまでも海岸沿いで自然湧出していることには変わらず、このため下風呂の中では珍しい黒いお湯を見ることができるのでしょう。

この他にもお婆ちゃんは「ここのお湯は死期に近い人がいるとお湯が白く濁るんだ」と何度も熱っぽく語り、その度に息子さんから「そんな迷信をお客さんに話してどうするの」と制されていましたが、とにかくお婆ちゃんはお喋り好きで、一度会話のスイッチが入ったら舌好調でノンストップでした。でもいくら聞いても聞き飽きない内容なので、むしろ沢山話していただけてとっても参考になり、湯浴みの思い出を分厚くすることができましたよ。

海辺地2号泉
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(硫化水素型)
57.2℃ pH5.8 湧出量不明(自然湧出) 溶存物質3.941g/kg 成分総計4.605g/kg

JR大湊線・下北駅から下北交通バス佐井・大間方面行で下風呂下車(約1時間10分)
青森県下北郡風間浦村下風呂33  地図
0175-36-2625

7:00~21:00
宿泊者限定販売の温泉手形(800円)を利用したため、現金による入浴料金はわかりません
シャンプー類・石鹸あり、他はなし

私の好み:★★★

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