拙ブログでは前回記事まで、2025年3月に私がインドの温泉を巡った際の記録を書き綴っておりますが、今回だけインドから離れて、面白い新刊書籍をご紹介致します。
2025年11月13日に従来の温泉関連本とは一線を画す異色の温泉本『日本人が知らない世界の温泉探検録』が発売されました。著者の鈴木浩大さんは、私が台湾の温泉巡りを始めた時にバイブル代わりに肌身離さず携行していた『湯けむり台湾紀行―名湯・秘湯ガイド』(まどか出版・絶版)の著者でもあり、これまで拙ブログでも鈴木さんのご著書を何度か取り上げています。

日本人が知らない 世界の温泉探検録 (わたしの旅ブックス)
2025年11月13日
鈴木 浩大 (著)
産業編集センター
世間一般のメディアや書籍などが温泉を取り上げる場合は、「行楽」や「癒し」といった方向性を基軸として、「おもてなし」「ラグジュアリー感」「豪華料理」「絶景」「非日常」等の要素、そして対象となる温泉の情報が重要視されますが、三度の飯より温泉が好きなマニアにとってそのようなファクターは二の次であり、寧ろ「アクセスの不便さ」「利用ハードルの高さ」「唯一無二性」「泉質」などを優先する傾向があって、一般受けとは全く異なるベクトルを有しています。このブログをご覧になっている方の何割かはおそらくこのマニアに当てはまるのではないでしょうか。とはいえ前者も後者も、各メディアで記事になったり書籍として上梓される場合は、最終的な主役は温泉の情報であるという点で共通しており、だからこそ温泉本として同類項に括れるわけです。
翻って、今回ご紹介する『日本人が知らない世界の温泉探検録』を私が読んで抱いた感想は、果たしてこの著書を温泉本として認識して良いのだろうか、というカテゴライズの難しさと、これまで無かった斬新な切り口への驚きでした。世界各地の温泉を巡っている鈴木さんが、いかにして目的地へ辿り着いたのかというプロセスに焦点を当てて書き綴られているのですが、情報収集や現地到達までの過程などは、手に汗握る冒険そのもの。勿論「行楽」や「癒し」とは完全な対極にあり、「アクセスの不便さ」や「利用ハードルの高さ」も日本の温泉とは比にならないほどハードです。従来の温泉本と唯一共通するファクターは「非日常」のみですが、観光目的の温泉が社会生活の延長線上にあるのに対し、この本で取り上げられている世界の未知なる温泉は普通の海外旅行では為しえない冒険と同義の「非日常」ですから、そうした点でもやはり大きく意味が異なります。数少ない手掛かりもとに現地へ向かい、ヒントや手助けを得て、苦労しながらようやく目的の温泉に入るという一連の流れはロールプレイングゲームそのものであり、正直なところ、文中の「温泉」を「眠れる秘宝」や「未知なる遺跡」と置き換えても躓き無く読み通せてしまいそうでした。それゆえ読み物としての面白さがあり、温泉マニアでなくとも読み応えを得られるでしょう。
それだけにとどまらず、第2部の「温泉旅の極意」では各地域における温泉探しのHow To が述べられており、実際に海外で温泉巡りをしたい、温泉を探したい、という本格的なマニアの要望にも応えています。こうした実用性を兼ね備えている点はさすが旅行の達人ですね。私も海外旅行の準備段階で書籍やネット上の旅行記をよく読みますが、どこに行ったか、何を楽しんだか、といった目的よりも、どのように行ったか、何が必要か、といった手段・方法・準備面を重視して読み込んでいますので、第2部はまさに痒いところに手が届く内容でした。
無駄に感想が長くなってしまいましたが、要するに、とっても面白い冒険旅行本でした。お薦めです。鈴木さんのように路を切り拓く行動力のある先達がいらっしゃるお蔭で、私のような温泉スケベは安心してその轍を歩いていけるわけですから、先達のご苦労に心から御礼をお伝えしたくなった一冊でした。
次回記事から再びインド関連の内容に戻ります。


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