人吉市街には鄙びた温泉浴場がいくつかありますが、ここもその1軒。球磨焼酎「繊月」の蔵元に隣接し、表通りに面しているので、どなたでも見つけられる好立地です。
破風のある三角屋根の建物は壁の黒ずみから想像するに相当の年代物でしょう。中に入るとすぐに番台がありますが、私の訪問時だけなのか、あるいは常時なのか、無人でした。脱衣所もおそらく建築当時そのままの雰囲気が保たれているのでしょう、とっても昭和チックです。室内を見回すと、鶴亀温泉で見かけた昭和24年の「入浴者の皆様え」という心得書きが、ここにも掲示されているではありませんか。ということは少なくとも戦後まもなくから今に至るまで同じスタイルを維持しているものと思われます。
鶴亀温泉と同じ心得書きが掲示されていました。鶴亀では第1項の混浴年齢制限が7歳に訂正されていましたが、ここでは訂正されておらず、12歳となっています。12歳といえば小学6年生。随分高めの設定ですね。
浴室はガラス窓で囲まれているので、日の光がたっぷり降り注いでいます。浴室の中央に横長の浴槽がひとつ据えられ、中で左右に二分されており、男湯の場合は左側に湯口が設けられていました。左側の槽は一般的な深さで丁度良い湯加減、右側は浅めで湯温もぬるめ。面白いのが浴槽のデザインで、一見するとただのタイル貼りなのですが、底を見てみると、左側の底には青い色のモミジ形、右側の底には赤い色のモミジ形の意匠のタイルが埋め込まれており、底というちょっと隠れたところに趣向を凝らす当時の人のセンスの良さが窺えます。服で言えば裏地にこだわるお洒落みたいなものですね。
湯口からは泡を立ててお湯が勢いよく注がれており、薄い紅茶色を帯びて透明、微かな金気の味、そしてモールに匂いと微かな金気の匂いが感じられます。ツルツルスベスベのとても気持ちよい浴感で、特に湯口のある左側は気泡が多くてちょっと白濁しているかのようにも見え、この泡が全身を包んでくれるので、何ともいえない心地よさです。ところがこの泡が実は曲者で、私が泡にまみれて夢見心地でお湯につかっていると、常連のお爺さんがやってきて、塩ビパイプの湯口の向きをグイっと変えて、今まで湯面に対して斜めに注がれていたものを垂直にして湯口を湯面下に潜らせると、泡の発生はピタっと止んで、私を包んでいた泡もやがて消えてゆきました。つまり泡は源泉由来ではなく、湯口での注ぎ方や勢いによって発生していたんですね。それでもお湯自体が持つ良さに変わりは無く、いつまでもこのお湯に浸かっていたい気分が手伝って、そのお爺さんと初対面にもかかわらず1時間近くにわたって、湯船に入りながら人生論についてお話しました(というか講釈を受けました)。お爺さん曰く、年をとった今の楽しみは焼酎と温泉しかないとのこと。どうか、このお爺さんがいつまでもこのお湯を楽しむことができますよう、心から願っています。
浴室内に掲示されている昭和33年製作の適応症と含有成分のリスト
浴槽。中央の仕切りを境に、右側は浅くなっています。掛け湯用でしょうね。
湯口。この向きだと泡がたくさん発生するのですが、垂直に向きを変えてしまうと泡が途端に止んでしまいます
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
49.9℃ pH7.52 180L/min 成分総計2420mg/kg
源泉温度が高いため、夏約30%、冬20%程度地下水を加水
JR肥薩線・人吉駅 徒歩15分(1.3km)
熊本県人吉市土手町40 地図
5:00~8:00、10:00~23:00(8:00~10:00は清掃のため入浴不可)
200円
私の好み:★★
コメント
お願いです
人吉に帰省すると温泉行きは必須。これまで色々な温泉に入ったが堤温泉の質は格別なのだ。ただ脱衣所、温泉内が汚い。大きな扇風機は埃が積んでいる。福岡の友人にお勧めしたいのに残念。
お願い
綺麗な温泉として観光客、地元の人に愛される温泉にしてください。お、も、て、な、し。
よろしくお願いします
Unknown
人吉生まれの女子さん、こんばんは。
人吉は良い温泉に恵まれている素敵な街ですね。身近なところに風情ある、そして質の良い温泉が湧いているだなんて、羨ましい限りです。
古い温泉施設はメンテナンス面で難しいところもあるのでしょうけど、たしかに埃云々はもう少し頑張ってほしいですね。より一層皆様から愛される温泉であってほしいと願うばかりです。