金山の中心部から磺港路を東に進んで磺渓の河口付近まで来ると、小さく静かな漁村の光景が広がっています。この河口に架かる磺港大橋から川を遡ること約400~500m、大きなクアハウス的温泉入浴施設「温泉健身館」を通り過ぎ、川沿いの細い路地へ入ってゆくと、道沿いに白いペンキで塗られ屋根上にステンレスのタンクを載せたコンクリの小さな建物が目に入ります。壁にはでっかく「男 女」と書かれており、更に入口には「男浴室」「女浴室」と縦書きされているので、どうやらここが浴場であることがわかります。表札らしきものは無かったので、ここでは仮に「社寮社区公共浴室」と名付けておくことにします。典型的な地元民向けの外湯のようです。
中に入ると、そこはいきなり浴室でした。台湾は浴室と脱衣所の仕切りがなく、それどころか、脱衣所と洗い場がフラットなので、脱衣スペースがビショビショであることが多いのですが、ここはその典型。棚に荷物を入れ、ベンチに座って裾が濡れないよう気をつけながら着替えました。なお、ここは全裸で入浴するので、水着は不要です。
普通、共同浴場の浴槽は何人かが入れる湯船がドンと据えられているものですが、ここは一人サイズの湯船が4つ並行に並んでいるという珍しいスタイル。なんだか蓋の開いた棺桶が並んでいるみたいですね。先客のおじいさんに倣って、まずバルブを開けて空の浴槽にお湯を注ぎ、ブラシで浴槽をゴシゴシ清掃。それが済んだら、浴槽に栓をしてお湯を溜めます。この栓は普通の塩ビのパイプ(VU管)でして、湯船の底の穴に突っ込んで使うのですが、中が空洞のパイプですから、もしお湯を入れすぎてもオーバーフローせずに、お湯はこの栓の中を流れてゆくという、簡素ながらも結構合理的な仕組みになっていました。といっても、掛け湯をしたら洗い場はビショビショになるんですけどね。
浴槽といい、桶といい、成分の析出でコッテリとコーティングされており、お湯が触れるところはどこもかしこも元の色がわからないほど茶色く染まっています。カルシウム分が相当濃いみたいですね。浴槽の縁も鱗が重なったみたいに厚く析出が付着しています。
源泉のままだとやや熱いので(47℃)、水で薄めて入りました。お湯はほんのり赤みを帯びた笹濁り、石膏的な甘味と土類の味、石膏泉や重炭酸土類泉によくあるの匂いが感じられます。成分の分析表はありませんが、少なくとも陽イオンはカルシウムが主役の、炭酸水素塩・硫酸塩泉だろうと思われます。また油分も含まれているらしく、湯面には油の膜がギラギラと存在感を誇示していました。重曹のサラサラと石膏のキシキシが混在したような浴感、トロミのあるお湯です。
すぐ近所の新金山温泉「温泉健身館」は強烈な酸性泉なのに、こちらは酸性さが感じられない重炭酸土類泉であるところが、金山温泉郷のバラエティの豊富さを実感させてくれます。人が入るごとに一回一回お湯を使い捨てるので、お湯のコンディションは新鮮そのもの、自分以外だれにも触れられていないんですから、とっても嬉しいです。
一旦お風呂からあがり、裏手に回ってみると、そこには源泉溜まりの枡が設置されており、溢れだしたお湯によってコンモリと石灰棚が形成されていました。こりゃすごい! 温泉ファンなら興奮すること必死です。
先客のおじいさんは、私のような明らかな余所者を笑顔で歓迎してくれ、懸命に片言の日本語を繰り出しながら接してくれました。心から感謝です。わかりにくい立地、鄙びた建物、地元民向け、濃厚な新鮮なお湯、裸で入れる、無料、などなど、温泉ファンが好む要素をたくさん擁しているこの温泉浴場、おすすめです。あくまで地元の方が入るためのお風呂ですので、その点の配慮をお忘れなく。
金山バス停から徒歩約15~20分
台北縣金山鄉磺港村 地図
・金山中心部から温泉路(この道が最短距離だが、金包街を抜けるところがゴチャゴチャしていて非常にわかりにくく、しかも坂道と階段の連続で、途中から墓地を貫く寂しい一本道になる。帰路に使う方がよい)か、民生路→公園路→磺港路(遠回りだがこちらの方が迷わない)と辿るなどして、まずは金山青年活動中心を目指す。活動中心から磺港路の緩い坂を下ると、磺港大橋の手前の左角に「温泉健身館」や「磺港社区公共浴室」があるので、そこを左折。「温泉健身館」の玄関を見下ろしながら、交通量の少ない広い真っ直ぐな道を北西に進んで400mほど行くと、北側(川側)へ入る路地があるので、そこを入って突き当りを右折すればすぐ。案内看板の類は一切ありません。
入浴可能時間および休業日不明
無料
脱衣の棚と桶以外、備品は一切なし
私の好み:★★★
コメント
残念
雨の中今月の三連休に行きましたが、
このお写真とは別ものになってました。
近所の人に聞いてみたところ改装したようです。
写真はないのですが、男女別のドアがあって
真ん中に大きく 【湯】とかいてあるので
わかりやすいかもです。
但し 他の共同浴場と同じで確か午前は10時まで午後は4時からになってたように思います。
とても楽しみにしてたのですが 昼に行ったので入れませんでした。
今後の方のためにコメントしておきます。
Re:残念
貴重なレポートをありがとうございます。
海外の温泉、特にこちらの共同浴場のようなマニアックな施設に関しては、なかなか最新情報が得られないので、実際に行かれた方のご報告を頂戴でき、誠にありがたく存じます。
改装されたものの、昼間はお湯が抜かれるようになってしまったんですね。わざわざ雨の中行かれたのに残念です。
どのような姿に変わったのか、棺桶のような湯船はどうなっているのか、一度実物を見てみたいものです。次回台湾へ旅行するときには再訪できるかな…。