日本の野湯は、台湾では野渓温泉と呼ばれており、近年人気を集めているそうです。その多くは交通の便が悪いところにあるのですが、八煙の野渓温泉は台北からバスを使えば余裕で日帰りできるらしいので、天気の良い日に行ってみました。
MRT台大医院駅を降り、公園路を台北駅に向かって100~200m程歩くと、皇家客運の金山行バスが発着する停留所に着きます。単にポールが立っているだけで待合室みたいなものはありません。運ちゃんはタバコを一服し終わると、ドアを開けて客を乗車させました。私は「八煙温泉会館」と書いたメモを運ちゃんに提示し、悠遊カードを読取機にタッチ。その際に運ちゃんからラミネートされた整理券のようなものを渡されました。どうやら下車時までこれを持っておくみたいです。朝8:00定刻通りに出発、台北駅の脇を通り、士林を抜け、坂を登って陽明山や大油坑といった名勝を通り過ぎ、眺めの良い山道を走って、天籟温泉会館に寄り道しながら、約1時間半の乗車、強薪という停留所付近で運ちゃんから「ここで降りろ」と指示されました。
辺りは山だらけ、目の前に建つ「八煙温泉会館」の建物ばかりが目立ちます。バスが走ってきた陽金公路(省道2号甲)から脇にそれる下りの小道があり、八煙温泉会館の看板がこれでもかというほど立っているので、まずはそれに従って小道を下りていきます。
ある程度下ると舗装路はヘアピンカーブを描いて「八煙温泉会館」の敷地へと入っていきますが、ここをカーブしないで直進し、砂利道を進んでいきます。
すると間もなく、「公告 ここは陽明山国家公園の敷地内ですよ」と書かれた赤い看板が見えてきます。ここからハイキング道がスタート。しばらくは川沿いのフラットな道が続き、幅員も広くて歩きやすいです。
途中バリケードみたいな構造物がありますが、骨組しか残っていないので、余裕で通過できました。川は金気を多く含んでいるか、河床が赤く染まっています。
やがて沢に架かる簡素な橋を渡ります。金属の足場に木の板を載せた造りですが、しっかりしているので安心して渡れました。渡り終えると今までの軽快な道から一転、急な上り坂がひたすら続きます。途中で振り返ると金山方面が見晴らせて爽快です。
登りきって再びフラットになると、目の前にバリケードが立ちはだかりました。看板も立っており「ここから先は危険なので立入禁止、違反したら罰金15000元」と書かれていました。まぁ、これはいわゆる自己責任という認識で先へ入っていきましょう。事実、バリケードの脇は多くの人がすり抜けるためにしっかり踏み固められています。ここを越えたらすぐ視界が開け、目的地である野湯に到着。バスを降りてから30分弱でした。
野湯といえば山奥にひっそりと佇んでいるイメージがありますが、この野湯はかなり有名らしく、午前中から早くも多くの人で賑わっていました。バリケードの立入禁止の看板が空しいばかり。湯船がしっかり岩で組まれて出来ており、しかも相当広く、野湯というより立派な露天風呂です。大きく2つに区分され、手前側はぬるめ、一段高くなった奥がちょうど良い湯加減でした。
手前側のぬるい湯船は更に4分割され、それぞれが4人は入れる大きさ(画像左側)。奥の湯船からお湯が落ちてくるところは打たせ湯になっていました。奥の湯船(画像右側)も2~30人は余裕で入れる広さ、深さもちょうど良いです。
野湯の右手奥にある滝が源泉になっており、熱いお湯が大量に流れ落ち、奥側の湯船の縁を遠回りして、一番奥で沢の冷たい水と程良く混ざってから湯船に入りこんでいました。源泉と沢水のブレンド具合が絶妙、実によくできています。
お湯は薄めですが白濁しており、いかにも硫黄という感じの味がします。多少の酸味も含まれていましたが、刺激をもたらすほどの強さではありませんでした。また硫黄的な匂いも感じられましたが、こちらもそれほど強くはありませんでした。白濁の酸性硫黄泉なんでしょうが、加水のためか元々そういう泉質なのか随分マイルドになっています。
先客のグループ(↑画像)は中高年10人近く、みなさん上段の熱い方に入浴していました。グループのうち2人のお爺さんが戦前に学校で習った日本語を辛うじて覚えていらっしゃったので、有難いことにこのお爺さんが皆さんと私との通訳を買って出てくれました。山奥に一人で現れた日本人の私に皆さん興味津津。一斉に視線がこちらへ注がれます。ほとんど檻の中の動物状態。「その岩陰で着替えなさい。一緒に入りましょう」と更衣スペースの場所を教えてくれました。沢の向こうの岩へ板の橋が渡されておて、岩にはカーテン代わりの厚い布が垂れ下がっており、即席更衣所になっていました。岩にはフックまで取り付けられています。水着に着替えて皆さんのもとへ。改めて大歓迎を受けました。みなさんは新竹・桃園方面からトレッキングをしに来たんだそうです。談笑しているうち、中年のおじさんが缶カラを片手に源泉(熱湯)の滝を登っていきます。何しに行ったのかと思っていたら、おじさんは缶に硫黄の泥を詰めて戻ってきました。ここは天然の温泉泥パックも楽しめるみたいです。みなさんそれぞれ泥を手に取り全身に塗り始め「あなたもやりなさい」と勧められました。結局私を含めた全員が泥を塗りたくって真っ白になり、お互い不気味なさまを指さして大笑いしあいました。
やがて次々に後客も現れ、台湾人のみならず、欧米人グループも2組到来。直接話しかけると、一方はハンガリー人、他方はアメリカ人でした。なんてインターナショナルな野湯なんでしょう。ここは台北駐在の外国人にも有名なようです。
台湾人のおじさんが私を沢へ手招きます。上流に向かって湯船の左手を流れるのは単なる沢なのですが、この冷たい水に入るのが気持ちいいのだとか。私は水風呂が苦手なのですが、せっかくなのでおじさんにお付き合い。入りしなは確かに冷たさで身が縮み上がりますが、気温が高いからか温泉で体が熱くなっていたからか、次第に爽快に。お湯と沢を何度も往復しちゃいました。湯船の温度は2段階になっているは水風呂があるは脱衣所があるは、至れり尽くせりの野湯でした。
後日調べてみると、ここは常に賑わっているみたいですね。公共交通機関で来られ、台北から近いという立地なので、当然の帰結でしょう。人影のないひっそりとした野湯をイメージすると期待外れに終わる可能性大ですが、現地の方との交流を楽しみたい方にはもってこいの温泉ではないでしょうか。
皇家客運・強薪バス停から徒歩20~30分
台北県金山郷重和村林口 地図
・台北から約1時間30分
・台湾のバス停には始発着の停留所(この路線の場合は台北と金山)の発車時刻しか掲示されていません。帰路、強薪バス停(八煙温泉会館入口)からバスに乗る際、
台北行に乗る場合は、金山発の時刻に+10分した時刻
金山行に乗る場合は、台北発の時刻に+1時間30分した時刻
がそれぞれの強薪バス停発車時刻だと考えると良いようです(金山行は台北市内の渋滞の影響で大幅に狂う可能性あり)
皇家客運公式サイト
野湯につき備品類なし
水着着用・混浴
更衣スペースあり
私の好み:★★★
コメント