青森県黒石市の人里離れた山中で静かに湛水している某ダムへとやってきました。まずはダムサイトの上を車で横断して、ひと気の無い管理事務所の前へと向います。
管理事務所前はダム湖を臨む展望台となっており、当地を訪れる観光客のために案内プレートが設置されているのですが、ここまでの道が良くない上、周辺には他にお店も観光地も何にも無いので、関係者以外でわざわざここへ来る人は、私のような奇特な趣味を持った人間か、あるいはダムマニアを除けば、ほとんどいないでしょうね。万一デートでこんなところに来ようものなら「もしかしてアタシ、殺されちゃうかも」と誤解されること必至です。観光客の目に触れることが稀な、ほとんど誰にも相手にされない案内プレートは、へそを曲げているかのように上部がめくれていました。
ダムサイトの上から湖面とは逆の下流側を眺めますと、そこには遥か彼方まで広がる大パノラマが…と言いたいところですが、この日はあいにくの天気で低い雲が立ち込めており、付近の山の鬱蒼とした繁みしか目に入ってきませんでした。この辺りにはかつてダム建設に伴い移転した集落があったそうですが、今ではすっかり姿を消してしまったようです。ただ、何らかの目的で整地された土地が段々になって残っており、そこだけ不自然に開けていました。
前置きが長くなりましたが、その集落には温泉共同浴場があり、上画像で赤い丸を付けた辺りに今でもその浴場が残っているらしいのです。そこへ向かうべく、こんな辺鄙な場所までやってきたのです。ダムサイトの脇から一直線に落ちる放水路の真下には、白いガードレールを欄干代わりにしている小さな橋が掛かっていますが、私は今からダムを下りきってこの橋を渡るつもりです(つまりこの橋は温泉への通過点です)。
その温泉へは、ダムの先に伸びる道をひたすら下ってダムサイトの直下へ行けば良いらしいのですが、予め調べておいた情報によればこの道は相当荒れているらしく、少なくとも普通車では到達が無理であろうとのこと。新車を購入してまだ1年も経っていない私としては、いくらSUVであるとはいえ、まだ多額のローンが残っている愛車に傷を付けたくありません。そこで今回は事務所の前に車を置き、現地まで歩くことにしました。歩く距離は大したことありませんが、いつものように単独行ですし、携帯の電波が通じないどころか、万が一のことがあっても人っ子一人いない山奥ですから、念のために長袖を着て、熊除けの鈴を装備し、水や非常用食料も携行。足元は泥濘に備えてゴム長靴に履き替えておきました。
さて出発です。初めのうちは舗装されているのですが、現在進行形で落石が発生している怪しい斜面を通り過ぎると…
すぐに砂利道となります。車1台が通れる幅員があるので、もしかしたら、わざわざ歩かなくても自分の車で行けるんじゃないかと考えたくなりましたが…
しばらく進んでゆくと路面が荒れ始め、やがて思いっきりえぐれている区間が長く続くようになりました。これでは、とてもじゃありませんが、普通の車では通行できません。この先には何もありませんから、ダム関係者などを除けば誰もここを通らないのでしょうね。管理事務所の前に車を置いて歩いてきた私の判断は正解でした。途中の繁みが切れたところで振り返ると、さっきまで真上にいたロックフィル式の巨大なダムサイトが聳えていました。
道を下れば下るほど、路面のえぐれ方が尋常じゃなく深くなってゆきます。おそらく雨天時には道が川のようになり、その流れが太くなる下の方ほど侵食作用が強く働いてしまうのでしょうね。オフロード車であっても、巧みにハンドリングしないと、深い凹みにタイヤがハマってしまうこと必至です。
坂を下りきると視界が開けて、道が二手に分かれる箇所に出ました。ここはダムへ向かう感じでグイッとU字状にターンします。ここから先は勾配もゆるやかになり、道幅も広く歩きやすくなりました。右手には何もない空き地が広がりますが、これは先ほど上から眺めた段々状の整地跡ですね。
ダムの目前まで来ると、先ほど上から見下ろした、ガードレールを欄干代わりにしている小さな橋を渡ります。橋の上から巨大なウォータースラーダーのような放水路を見上げると、法面の上に管理事務所の屋根がちょこんと覗かせていました。
小さな橋の先で道は二手に分かれますが、ここは直進して目の前の建物を目指します。なお、ここを右手(画像右(下)の先)に進むと、以前拙ブログでも取り上げた温泉施設跡の廃墟にたどり着くはずですが、道は相当荒れており、轍も藪で消えかかっていましたので、実際に行き来できるかわかりません。
分岐を直進した後は、ダム直下の施設の前を通過し、この建物の裏手に回り込みます。この施設まではダム関係者が行き来するためか、辛うじて道としての体面は保たれているのですが、この先はダム管理とは無縁の場所であり、今では誰も通らなくなってしまったため、ほとんど道として機能しておりません。建物裏では雨水がたっぷり溜まってぬかるみと化していましたが、こんなこともあろうと上述のように出発時点でゴム長靴に履き替えていましたので、この程度のぬかるみは難なくクリアできました。我ながら自分の用意周到さに感心してしまいます。
でも行く手を阻むのはぬかるみだけではない。初夏ゆえ藪が茂り放題ですから、ひたすら藪漕ぎしなければなりません。背丈以上の雑草や太い枝が幾重にも道を塞いでおり、相当長い期間にわたって誰もここを通っていないことが窺えます。
藪こぎを続けながら坂を登るとやがて道がどん詰まりとなり、スタート地点の管理事務所から徒歩25分で、ようやく要目温泉の共同浴場に到達しました。かつて当地にあった集落は7世帯しか無かったそうですが、扉が2つあるということは、僅かな人口でもきちんと男女を分けて利用していたのでしょうね。
目標物は無事発見できましたが、湯屋はすっかり茂みに埋もれており、窓は破けて完全に廃墟と化しています。これじゃ内部が荒れている、あるいはお湯が枯れているかもしてませんね。無駄足だったかな…。
やや固めのドアを開けた瞬間、中からムワッとした熱く不気味な湯気に包まれました。ということは、お湯は湧いているのだな…。下足場跡を通り過ぎ、更に奥へ進んで木戸を開けると、そこにはタイル貼りの浴室と、こぢんまりした湯船があり、湯船にはちゃんとお湯が湛えられているではありませんか。しかも意外なことに、あまり荒れていません。
ちなみにお隣の浴室はこんな感じ。2つの浴室はシンメトリになっており、一つの浴槽を真ん中で仕切って両浴室で使い分けていたようです。両浴室には風呂桶もちゃんと用意されていました(ペンライトで照らして撮影しています)。これらの桶は当時のものか、あるいは後年になって当地を訪れた温泉ファンが置いていったものであるかは不明です。湯屋内はお湯から上がる湯気と熱によってサウナ状態となっていました。
四角い湯船は大体3人サイズ。底からパイプが立ち上がっており、その先っちょやパイプの根元からお湯が絶え間なく湧き上がっています。湯船に温度計を突っ込んだところ、46.6℃と表示されました。室内が薄暗くてはっきりしたことはわかりませんが、お湯はほぼ無色透明で、味や匂いにこれといった特徴は無いのですが、強いて言えば硫酸塩泉のようなフィーリングが得られました。
湯屋の窓が破けていたので、もしかしたら槽内に危ない異物が沈んでいるかもしれないと不安になったのですが、お湯の温度こそちょっと熱めですが入れない温度ではないし、手持ちのペンライトで底を照らしてみても、特に目立って怪しい物は見られなかったので、知らぬが仏、薄暗くてよくわからないことを逆手にとって自分を騙し、思い切って入浴してみました。長い期間全く手入れされていないお風呂ですから、底にはヌメリが発生していましたが、湯面にゴミが浮いているわけでもなく、お湯が汚れて異臭を放っているわけでもなく、山中で放置されているお風呂にしてはそこそこコンディションが良かったので、しっかり湯浴みすることができました。肝心のお湯も絶えず湧いては捨てられていますので、かなり綺麗な状態でした。やはり野湯と違い、吹き晒しとはいえ屋根があると良好な状態が保たれるのですね。あるいは、道こそ荒れているものの、定期的に有志の方がここへ来て、お手入れしているのかもしれません。
「国破れて山河あり」ならぬ「人家絶えて温泉あり」といった風情の要目温泉。入る人がいなくなっても、熱いお湯はこんこんと湧き続けているんですね。
温泉分析表なし
青森県黒石市某所
立入禁止のエリアではありませんが、念のため場所の特定は控えさせていただきます。
いつでも入浴可能
無料
熊除けの鈴や簡単なトレッキング装備は用意しておきましょう
私の好み:★★
コメント
Unknown
青森の温泉キタ━(゜∀゜)━!と思ったら、また随分とマニアックな(笑
これはなんという罰ゲームでしょうか!?(笑
存在は知ってましたが、私はチキンなものでこの手の温泉はどうも。。
>温泉施設跡の廃墟
ここは私の温泉仲間が絶賛してました。
私も未湯です。。
入ってみたかったなー。
Unknown
青森の温泉キタ━(゜∀゜)━!と思ったら、また随分とマニアックな(笑
これはなんという罰ゲームでしょうか!?(笑
存在は知ってましたが、私はチキンなものでこの手の温泉はどうも。。
>温泉施設跡の廃墟
ここは私の温泉仲間が絶賛してました。
私も未湯です。。
入ってみたかったなー。
Unknown
プンタさん、こんばんは。
申し訳ないのですが、今回と次回は「罰ゲーム」になっちゃいます。次回記事は私にとっても「罰ゲーム」でして、昔懐かしい「アメリカ横断ウルトラクイズ」で言うところの、「東京直行」の旗をなびかせて荒野を彷徨う敗者のようでした。
ちなみに、この手の温泉は、私も正直なところ得意じゃないのですが(信じていただけるかどうか…)、今回はたまたま気分が高揚していたのでチャレンジしちゃいました。一人行動ですので、無事に帰ってこられるまでは不安でいっぱいです。
Unknown
プンタさん、こんばんは。
申し訳ないのですが、今回と次回は「罰ゲーム」になっちゃいます。次回記事は私にとっても「罰ゲーム」でして、昔懐かしい「アメリカ横断ウルトラクイズ」で言うところの、「東京直行」の旗をなびかせて荒野を彷徨う敗者のようでした。
ちなみに、この手の温泉は、私も正直なところ得意じゃないのですが(信じていただけるかどうか…)、今回はたまたま気分が高揚していたのでチャレンジしちゃいました。一人行動ですので、無事に帰ってこられるまでは不安でいっぱいです。
断念組です
今晩は。いつも楽しく拝見しております。
今年のGWに紹介の温泉訪問にチャレンジしました。季節がらダム上からはっきりと視認できましたものの、あまりの静けさ、熊との遭遇の危険に耐えられず、断念しました。放水路沿いに降りて行くのが急ではあるもののコンクリートづたいに降りて行け、よさそうでしたが、一部涸れ藪が行く手を阻んでおり、こちらも断念しました。無事の御入浴&ご帰還、 なによりです。
断念組です
今晩は。いつも楽しく拝見しております。
今年のGWに紹介の温泉訪問にチャレンジしました。季節がらダム上からはっきりと視認できましたものの、あまりの静けさ、熊との遭遇の危険に耐えられず、断念しました。放水路沿いに降りて行くのが急ではあるもののコンクリートづたいに降りて行け、よさそうでしたが、一部涸れ藪が行く手を阻んでおり、こちらも断念しました。無事の御入浴&ご帰還、 なによりです。
無事に帰ってきました
ポットライフさん、こんばんは。
>放水路沿いに降りて行く
なるほど、確かにその手があったんですね。単純なことに気づきませんでした(でも藪が行く手を阻んだのですよね…)。私は記事で述べた通り素直に道を辿りましたが、道中の視界は開けているものの、私も単独行ですから、仰るようにあの静けさと不気味さに肝を冷やしながらの往復でした。また浴室自体も廃墟みたいな感じですから、辿り着いたは良いものの、内部に変なものは無いかと、軽くビビりながら戸を開けて、特に異状が無いことが確認できた後にも、藪の中からクマが出てきたらどうしよう…など、不安が払しょくされることはありませんでした。
そういえば今年はブナの大凶作が予測されていますから、クマ被害が多発しそうですね。野湯探索の際には気を付けないといけませんね。
東北森林管理局「ブナ開花・結実調査」
http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/buna.html
無事に帰ってきました
ポットライフさん、こんばんは。
>放水路沿いに降りて行く
なるほど、確かにその手があったんですね。単純なことに気づきませんでした(でも藪が行く手を阻んだのですよね…)。私は記事で述べた通り素直に道を辿りましたが、道中の視界は開けているものの、私も単独行ですから、仰るようにあの静けさと不気味さに肝を冷やしながらの往復でした。また浴室自体も廃墟みたいな感じですから、辿り着いたは良いものの、内部に変なものは無いかと、軽くビビりながら戸を開けて、特に異状が無いことが確認できた後にも、藪の中からクマが出てきたらどうしよう…など、不安が払しょくされることはありませんでした。
そういえば今年はブナの大凶作が予測されていますから、クマ被害が多発しそうですね。野湯探索の際には気を付けないといけませんね。
東北森林管理局「ブナ開花・結実調査」
http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/buna.html
春にでも行ってみます!
要目温泉には私も以前行こうとしたんですが、場所が分からずに断念しました。K1さんのお陰でたどり着けそうなので雪が消えたら行ってみます。
この場所から下流に下った、支流の沢沿いの場所に、要人温泉というのがあって、雪で潰れた小屋の残骸もあるんですが、その小屋の少し上流に、コンパネとブルーシートで作った湯船があったので、以前入浴してきました。とても熱かったので、長い時間は無理でした。
また、この沢の合流点手前には一軒家があり、確か営林署か何かの所有の入浴施設らしいのですが、鍵が掛かっていて入れませんでした。
更に下流に位置する、K1さんも行かれた廃墟の温泉には、私は以前二度ほど入浴しています。川と同じ目線の岩風呂はなかなか良かったんてすが、残念ながらその後失火で焼失してしまった様で、大変残念ですね。復活を望みたいと思います。
春にでも行ってみます!
要目温泉には私も以前行こうとしたんですが、場所が分からずに断念しました。K1さんのお陰でたどり着けそうなので雪が消えたら行ってみます。
この場所から下流に下った、支流の沢沿いの場所に、要人温泉というのがあって、雪で潰れた小屋の残骸もあるんですが、その小屋の少し上流に、コンパネとブルーシートで作った湯船があったので、以前入浴してきました。とても熱かったので、長い時間は無理でした。
また、この沢の合流点手前には一軒家があり、確か営林署か何かの所有の入浴施設らしいのですが、鍵が掛かっていて入れませんでした。
更に下流に位置する、K1さんも行かれた廃墟の温泉には、私は以前二度ほど入浴しています。川と同じ目線の岩風呂はなかなか良かったんてすが、残念ながらその後失火で焼失してしまった様で、大変残念ですね。復活を望みたいと思います。
Unknown
MR.Aさん、こんばんは。
この界隈は探せばいろいろと温泉があるんですね。支流の沢沿いの温泉などは行ったことがありません。それらしきものがあることは小耳に挟んでいたのですが、場所がよくわからず、臆病者の私は要目温泉に行くのが精一杯でした。廃墟になってしまった温泉は、本当に残念ですね。またあのあたりを探索してみたくなりました。
Unknown
MR.Aさん、こんばんは。
この界隈は探せばいろいろと温泉があるんですね。支流の沢沿いの温泉などは行ったことがありません。それらしきものがあることは小耳に挟んでいたのですが、場所がよくわからず、臆病者の私は要目温泉に行くのが精一杯でした。廃墟になってしまった温泉は、本当に残念ですね。またあのあたりを探索してみたくなりました。