前回記事の続編です。
続きましては、栃尾又温泉の象徴的存在である共同浴場「したの湯」へ入らせていただきました。鈎状にクネクネと曲がる館内の通路を進みながら、谷の底へ向かってどんどん下ってゆきます。総木造の廊下はなかなか趣きがあり、歩くだけでも気分が高揚するのですが、結構な高低差があるためお年寄りや足腰の弱い方のために、踊り場には休憩用の腰掛けが用意されていました。こうした小さな気遣いからお宿の真心が伝わってきますね。廊下の窓から外を見ると、深い雪に埋もれながら湯気抜きだけ姿を覗かせている「したの湯」が見えました。
下りきると芥子色の暖簾がお出迎え。当世の日本旅館らしい民芸調の内装で、土壁が懐かしく温かいムードを与えています。前回取り上げた「うえの湯」と同様に、この「したの湯」も栃尾又温泉の各旅館に宿泊する客が利用する共同浴場ですが、モダン和風な内装は「自在館」の離れとしての印象を強く受けます。脱衣室に付帯しているトイレは、いまや日本人の日常生活に必須となっている洗浄機能付き便座でした。
暖簾の手前には飲泉処があったので、実際に飲んでみました。このぬるいお湯は浴場で使われているものと同じ源泉らしく、まろやかで癖のない口当たり。飲泉した時点では特にこれといったインパクトが無いように思われたのですが、この飲泉の影響なのか、その後利尿作用が強く働き、霊泉のパワーに驚かされました。
ひっそりと佇む静寂の浴室。深く切れ込んだ谷の底に建てられており、その地形が世塵溢れる現実世界とこの浴場とを隔絶しています。窓の外は一面銀世界。雪で白く輝く外光が、立ち上ぼる湯気によって乱反射し、室内には幻想的な淡い明かりで満ちていました。
一応洗い場のようなスペースがあるのですが、1箇所しか無い上に狭いので、ここで体を洗うのはちょっとむずかしいかも。体の汗や垢を流したい場合は、前回取り上げた「うえの湯」や、次回取り上げる予定の貸切風呂「うさぎの湯」「たぬきの湯」など、ちゃんとした洗い場のあるお風呂を利用した方が良さそうです。壁には「心得」と題して入浴のマナーが箇条書きされていました。
浴槽は主と副の2つに分かれており、いずれもタイル貼りですが、和の雰囲気を醸し出すために縁を石で囲っています。主浴槽はおおよそ8人サイズ。槽内のステップは一般的なお風呂よりも幅が広くとられており、腰を下ろすといい塩梅で浸かれ、長湯しやすいような設計となっているのでした。このステップに沿って塩ビのパイプが沈められているのですが、これは前回記事の「うえの湯」でも触れた加温用の設備であり、塩ビ管の中にステンレスのフレキ管が通っていて、その中に熱いお湯を流して熱交換を行うことにより、厳冬期に低くなりがちなお湯を温めているのでしょう。
主浴槽のお湯は中央に積み上げられている石積みの島から注がれていました。パイプは2方向へ突き出ているのですが、それだけでは間に合わないのか、石の蓋の隙間からもお湯が漏れ出ていました。ちなみに源泉はこの真下にあるんだとか。コップが置かれており、飲泉しながら湯浴みするお客さんの姿も見られました。主浴槽は完全放流式の湯使いであり、石の隙間からふんだんに溢れ出ている他、浴槽の隅っこに設けられている目皿からも排湯されていました。
小さな副浴槽のお湯は加温循環されており、上がり湯として暖を取るために入るものですが、指摘されなければ循環しているとは気づかないほど、浴槽のお湯はなかなか良好な状態でした。
完全放流式の主浴槽から溢れ出ているのはわかりますが、加温循環されているはずの副浴槽からもしっかり溢れ出ているのが意外でした。道理でコンディションが良いわけですが、加温したお湯を放流させるだなんて、燃料代がバカにならないでしょうね。
完全放流式である主浴槽の湯加減は35~6℃という不感温度帯であり、じっくり長湯していると、肌に薄っすらと微細な気泡が付着しました。「うえの湯」と同じ源泉なのですが、直下に源泉があるこちらのお風呂の方がはるかにお湯の鮮度感やまろやかさが優れており、時間を忘れていつまでも浸かっていられます。
夜の「したの湯」は幻想的。まさにライティングの妙といったところでしょう。室内では湯口からお湯がトポトポと落ちる音しか聞こえません。この雰囲気に圧倒されてしまうのか、湯船に浸かった入浴客はみな一様に口を噤んで沈黙し、その場で微動だにせず、目を閉じて瞑想に耽けていました。お湯は実に軽やかで優しく、長湯しても体への負担が全く感じられません。このため夜間の入浴で私は微睡んでしまい、実際にちょっとウトウトしてしまいました。
じっくり長湯すれば、上がり湯に浸からなくても体の芯まで十分に温まるのが不思議なところ。しかも、一般的なお風呂ならば必ず発生する湯上がり後の発汗がほとんど無いので、湯上がり後の爽快感は極上です。肌のサッパリスベスベ感はもちろんのこと、モチモチ感もすごい。化粧水に浸かっているような霊泉の効果に、普段は美肌なんて意識しない無粋な男の私も驚いてしまいました。
栃尾又1号
単純弱放射能温泉 36.8℃ pH8.6 104L/min(自然湧出) 37.0×10^-10Ci/kg(10.2マッヘ) 溶存物質272.4mg/kg 成分総計272.4mg/kg
Na+:30.8mg(39.19mval%), Ca++:40.8mg(59.65mval%),
Cl-:12.4mg(10.80mval%), SO4–:117.3mg(75.30mval%), HCO3-:19.8mg(9.88mval%),
H2SiO3:46.1mg,
その4につづく
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