前回記事のつづきです。
北山集落で美しい伝統家屋と市街戦の跡を見学していたら、いきなり篠突く雨の猛襲を喰らってしまったので、これ以上の散策を断念し、土砂降りの中を路線バスに乗り込んで金城のバスターミナルへと戻ってまいりました。今回の金門島旅行は1泊2日という限られた時間であり、この日のうちに島を出発しなければなりません。でも往路と同じルート、すなわち空路で台湾へ戻るのは、へそ曲がりな私としては芸が足りない気がします。どうせなら、島の目と鼻の先に広がる中国大陸へ海路で渡ってやろうじゃないか。そこで、水頭という地区にあるフェリー埠頭へ向かい、そこから船で厦門(アモイ)へ向かうことにしました。
まずは、バケツをひっくり返したような大雨に見舞われてる金城バスターミナルから、7A番の水頭行きバスに乗車します(7Aじゃなくても、7番系統の水頭行ならどのバスでもOK)。
金城から約20分で水頭フェリーターミナルに到着です。まだ土砂降り状態が続いていたので、ターミナルの外観は撮ることができず、バスから駆け足で逃げこむようにターミナル内へと入りました。
ターミナル内では客引きのオバちゃんやお姉ちゃん達から次々に声を掛けられました。館内には銀行の両替所(台湾元と人民元の相互間のみ)の他、航空会社や旅行会社のカウンターが並んでおり、それらでは乗船券と航空券など何かをパッケージにして安く提供しているんでしょうけど、言葉がサッパリ聞き取れない私にとって、そうした呼び声は単なる喚き声にしか聞こえません。
呼び込みの人たちを掻き分けながら、ターミナルの最奥にある乗船券販売窓口へと向かいます。この水頭港から大陸へ向かう航路には、厦門の五通港行きと、泉州の石井港行きの2本があります。窓口は行き先別に分かれており、カウンター上に港の名前が大きく表示されていますから、漢字が読める人なら迷うことはありません。厦門の五通港行きは毎日8:00~18:30の間で、30分~1時間毎に出航しており、大需要に応えるべくフリークエント性の高い運行体制が組まれています。私が窓口に着いたのは16:15で、16:30発のチケットは発売が打ち切られていましたが、その30分後に出る17:00発の便は発売中でしたので、窓口で「5點1張」(5時の便を1枚)と告げ、パスポートと現金を差し出すだけで、チケットを購入できました。とってもイージーです。なおここで支払った金額は、運賃625元とターミナル施設利用料100元を合計した725元。チケットを手にしたら、手荷物検査と出国手続きを行い、パスポートにスタンプを捺してもらって、乗船口へと向かうだけ。本当に拍子抜けするくらいに楽々なのですが、これは「小三通」という政策のおかげです。
いまでこそ台湾と大陸は簡単に行き来できるようになりましたが、かつてはこの金門島をはじめとして長年に及んで激闘を繰り返していた敵同士でしたから、往来するなんてもってのほか。砲撃が止むようになって長い年月が経ち、お互いの緊張が緩みはじめたころ、大陸の鄧小平サイドが「通商・通航・通郵」という3項目の「通」、すなわち「三通」と、「学術・文化・体育・工芸」という4項目の交流である「四流」を始めようじゃないかと提案して台湾側に揺さぶりをかけたところ、台湾側の蒋経国は却って警戒心を強め、大陸に対して「不接触・不談判・不妥協」の三不政策を強固に貫くようになりました。
しかしながら、香港やマカオが次々に中国へ返還され、中国の経済成長が著しくなるに伴い、これら返還地域を経由した台湾と大陸の交流(投資)が盛んになり、交流の妨げになっている三不政策に対する不満が高まってゆきます。そこで台湾側では、島嶼部の経済振興策を兼ねて、金門島や馬祖島といった大陸沿岸の島嶼に限定して「三通」を認めるようになりました。この地域限定の小規模な三通を「小三通」と呼んでいます。「小三通」は暫定的且つ試験的な措置でしたから、当初は行き来できる人の国籍や目的が厳しく限定されていましたが、徐々に制限が緩和され、今では外国人だろうが観光目的だろうが、自由に往来できるようになりました。その後馬英九が政権を握ると、島嶼部だけの「小三通」に限らず、台湾島と大陸各地を直接結ぶ大規模な三通が実現するようになり、今では皆様ご存知のように、大陸から高頻度で運行される直行便で、日々観光客が大挙をなして台湾を訪れております。
国民党の連戦が胡錦濤と会談をした際には「第三次国共合作」かと世間を驚かせましたが、現在の総統である馬英九はあからさまな大陸寄りですし、台湾経済も大陸にどっぷり依存していますから、三通の本格的な実施によって、鄧小平は今ごろ草葉の陰で不敵な笑みを浮かべていることでしょう。泛緑贔屓の私としては、こうした現状に眉をひそめたいところですが、金門島と厦門との行き来が楽になって旅の自由度が高まったので、今回だけは「小三通」に感謝です。
パスポートコントロール以降には、空港のような綺羅びやかな免税店が並んでおり、大陸マネーを手ぐすね引いて待っていました。
チケットに表示された3番の登船口へ。待合室では金門島のシンボルである風獅爺(沖縄のシーサーの先祖)をバックに記念撮影をする家族の姿も見られました。
外は相変わらずザーザー降りですが、乗船する桟橋までしっかり屋根が掛かっていますので、雨に濡れる心配はありませんでした。今回乗った船は中国船籍の「捷安」号で定員は300名。
船内の座席は紅白が交互に配されており、中央部には売店も設けられていました。船内の案内表示も、モニターに映し出される映像も、すべて簡体字。とうとう台湾施政下から離れて共産党施政下に入るんだということを、否応なく実感させられます。券面には特に座席番号などに関する記載はなく、空いている席ならどこに座っても良いみたいです。この便の乗船率は50%あるかないかという状況で、席にはかなり余裕がありました。
せっかくですから国共が対峙し合った海の様子を眺めていたかったのですが、窓に大粒の雨が打ち続けているため視界は全く効きませんし、朝から島内を動きまわっていたので、すっかり疲れ果ててしまい、船が岸を離れる頃には熟睡して意識を失っておりました。
雨脚は強かったものの、風は大したことが無く、そもそも島と大陸に挟まれた内海ですから、ほとんど揺れを感じること無く(寝ていたのでわからなかっただけですが)、40分弱で対岸の厦門・五通港に到着しました。この五通港ターミナルは近年の中国でよく見られる、カーブを帯びた骨組みとガラスを多用した無駄にデカい建物で、遠巻きに見ると綺麗なのですが、細かく観察すると雑で無粋で不親切、そして空虚感たっぷり。中国にいることを実感します。
このターミナル内で入国手続きを行い、いい加減な手荷物検査を受けて、ようやく出場です。私のような中台以外の外国籍の人間は少ないのか、イミグレはさほど待つことなく、サクっと通過できました。
こちらのターミナルは金門島とは比べ物にならないほど広く、その構内には夥しい数の旅行会社のカウンターが並んでいました。上述のように現在では大陸と台湾を直行する航空便がたくさん運行されるようになりましたが、国際線となる直行便より、金門島までフェリーで渡り、島から国内線の飛行機で台北等へ向かったほうが割安になるため、各航空会社や旅行会社は船と飛行機のチケットをセットにした格安パッケージを、しのぎを削りながら販売しているわけです。
なおこのターミナル内には銀行の両替所があり、台湾元の他、米ドルやユーロ、そして日本円など主要各国の通貨を取り扱っていましたので、私はここで人民元への両替を済ませました。
ターミナルを出ると、目の前には高層ビルが林立していました。金門島から肉眼で見えたビルは、これらの建物だったのかもしれません。
厦門の街は島になっており、いま私が到着した五通港は、街の中心部(島の西側)とは正反対の位置(島の東端)にあります。この晩に予約しているホテルは中心部にあるため、厦門の島を東西に横切らねばなりません。一応ターミナルから市街へ出るための路線バスがあるのですが、目の前を横切る目抜き通りを走る路線バスは大混雑。面倒なので、ターミナル前で待機していたタクシーに乗っちゃいました。
夕方だからか、島内の道路はどこも大渋滞。沿道の各バス停には溢れんばかりの客がおり、どのバスもギューギュー詰め。その様子を見ながら「タクシーに乗って正解だ」とひと安心。しかしながら延々と渋滞に巻き込まれ、直線距離で15kmも無いホテルまでの道のりに要した時間は、なんと1時間半でした。
次回に続く
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コメント
Unknown
金門島の名前だけは知っていたのですが、こんなに大陸に近いとは知らず、K-Iさんの記事をとても興味深く拝見しました。すごくわかりやすくて素晴らしい!
昔ながらの集落が残っていたり、それを活かした素敵な宿があったり、俄然行ってみたくなりました。
それにしても今や厦門行きのフェリーにも簡単に乗れてしまうとはびっくり。
本土とは仲良くしてほしいけど、台湾は台湾でいてほしいな、と心から思います。
Unknown
金門島の名前だけは知っていたのですが、こんなに大陸に近いとは知らず、K-Iさんの記事をとても興味深く拝見しました。すごくわかりやすくて素晴らしい!
昔ながらの集落が残っていたり、それを活かした素敵な宿があったり、俄然行ってみたくなりました。
それにしても今や厦門行きのフェリーにも簡単に乗れてしまうとはびっくり。
本土とは仲良くしてほしいけど、台湾は台湾でいてほしいな、と心から思います。
Unknown
Luntaさん、こんばんは。
私も実際に海岸に立ち、大陸とのあまりの近さに、本当に驚きました。こんな至近距離で対峙し合って、台湾側が死守できたことは、奇跡なのかもしれませんね。
もちろん戦争関係のみならず、島内の集落には福建の古い文化が美しい形で残っており、まるで中国古典絵画の世界を散策しているような気分でした。台湾の老街とは一味違った魅力がありました。
>台湾は台湾でいてほしいな
全く同感です。おそらく次期総統には選ばれるであろう蔡英文には、是非そのあたりのバランスをうまくとっていただきたいと、私も切に願っております。
Unknown
Luntaさん、こんばんは。
私も実際に海岸に立ち、大陸とのあまりの近さに、本当に驚きました。こんな至近距離で対峙し合って、台湾側が死守できたことは、奇跡なのかもしれませんね。
もちろん戦争関係のみならず、島内の集落には福建の古い文化が美しい形で残っており、まるで中国古典絵画の世界を散策しているような気分でした。台湾の老街とは一味違った魅力がありました。
>台湾は台湾でいてほしいな
全く同感です。おそらく次期総統には選ばれるであろう蔡英文には、是非そのあたりのバランスをうまくとっていただきたいと、私も切に願っております。
コメントでははじめまして
初めてコメントさせていただきます、ももママと申します。
時々拝見させていただいていますが、いつも詳しく書き込まれているのには驚きます。
私など現地に住んでいるのにリサーチ力に欠けていて、お恥ずかしい限りです。
金門にはまだ行ったことがありませんので、この記事を参考に行ってみようかと思っております。
また台湾にもお越しになりますか。
ステキな温泉ブログを楽しみにしております。
コメントでははじめまして
初めてコメントさせていただきます、ももママと申します。
時々拝見させていただいていますが、いつも詳しく書き込まれているのには驚きます。
私など現地に住んでいるのにリサーチ力に欠けていて、お恥ずかしい限りです。
金門にはまだ行ったことがありませんので、この記事を参考に行ってみようかと思っております。
また台湾にもお越しになりますか。
ステキな温泉ブログを楽しみにしております。
Unknown
ももママさん、こんばんは。拙ブログでははじめまして♪
台湾へ行く際には、必ずももママさんのブログを拝見しており、以前も温泉に関する記事でコメントさせていただきました。私が台湾のディープな温泉へ実際に行くきっかけになった大きな要素のひとつが、ももママさんのブログです。台湾各地のいろんな場所についてご紹介くださり、本当に感謝しています。
実は、今週末に行われる総統選の前後数日に台湾へ出かけて、選挙の雰囲気などを楽しむ予定です(^^)。今回は温泉へ行けるかわかりませんが、一か所ぐらいは行けたら良いなと思っています。
金門島には1泊しかできませんでしたが、伝統家屋の民宿や戦跡、そして台湾とはちょっと違う福建独特の文化が面白く、とても有意義で印象深い旅になりました。是非、お出かけになってみてください。今後ともよろしくお願いいたします。
Unknown
ももママさん、こんばんは。拙ブログでははじめまして♪
台湾へ行く際には、必ずももママさんのブログを拝見しており、以前も温泉に関する記事でコメントさせていただきました。私が台湾のディープな温泉へ実際に行くきっかけになった大きな要素のひとつが、ももママさんのブログです。台湾各地のいろんな場所についてご紹介くださり、本当に感謝しています。
実は、今週末に行われる総統選の前後数日に台湾へ出かけて、選挙の雰囲気などを楽しむ予定です(^^)。今回は温泉へ行けるかわかりませんが、一か所ぐらいは行けたら良いなと思っています。
金門島には1泊しかできませんでしたが、伝統家屋の民宿や戦跡、そして台湾とはちょっと違う福建独特の文化が面白く、とても有意義で印象深い旅になりました。是非、お出かけになってみてください。今後ともよろしくお願いいたします。