上塩原温泉 河童の湯

栃木県

マニアという偏屈で天邪鬼な生き物は、世間の評価とは逆の志向を好む傾向にあり、温泉に限って見るならば、寛ぎ・広い・綺麗・ゆったり・豪華などといった世間一般が求める価値観を鼻で嗤うかのように、鄙び・不便・狭隘・
といったものを追及して意気揚々となり、そんな不可解な態度を不意に露呈することで世間から眉を顰められ、あるいは嘲笑の対象になったりして、益々卑屈な日陰者としての性格を強くしてゆくわけです。拙ブログはその悪しき典型例であり、己の恥を全裸状態で日々公開し居丈高になり、その後ふと我に返ってその無見識を後悔しているのですが、一度性根にマニアとしての病根が宿ってしまうと、なかなか払拭することができず、どんなところへ出かけてもマニアとしての欲求を満たそうと必死になり哀れな姿を曝け出してしまいます。

栃木県塩原温泉は首都圏に属し、東京から近いこともあって、いわゆる一般的なニーズを求めるお客さんやそれに応えようとする施設が主流です。ということは、上述のような温泉マニアが喜びそうな鄙び系の施設は決して多くなく、あっても一般供用されていない場合が多いのですが、探せば温泉地内の各所に点在しているので、私も訪問の度についつい悪しき癖を発露させ、メジャーな施設には見向きもせずに、あちこちを徘徊してしまいます。

前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのはマニアの間では有名でありながら、一般のお客さんにはほとんど知られていない温泉である上塩原の「河童の湯」です。

 
その場所は、国道から塩原元湯へ向かう一本道の途中。右手の路傍にすっぽん料理店の存在を示す古びた看板が立っているのですが、よく見ると「秘湯 河童の湯」と書かれており、それによって温泉浴場の存在がわかります。看板の後ろの建物はすっぽんの飼育場かしら?

 

アプローチの短い坂道を上がると、正面に母屋、右手に納屋、そして左手にすっぽん料理店「河童」が、コの字を描くように建ち並んでいます。今回の「河童の湯」はこのすっぽん料理店に付帯しているお風呂であり、お食事(一人4300円。2018年3月現在)を注文すれば無料で入浴できるのですが、注文せずとも湯銭を支払えば入浴のみの利用が可能です。今回私はお食事をいただかないでお風呂のみ入らせていただくことにしました。まずはお店の暖簾を潜り、湯銭を納めます。

 
そして一旦お店を出て、右隣に建つ湯小屋「河童の湯」へ向かいます。

 
湯小屋の中にはお風呂が2室あり、左右シンメトリになっています。それぞれ貸切で使うため、先客がいる場合は待たねばなりません。幸い、私の訪問時には両方とも空いていたので、特に理由はないのですが右側のお風呂に入ってみました。なお左右各浴室(更衣スペース)の出入口にはドアや鍵などありませんから、下足の有無や気配などで、使えるか否かを確認することになります。
脱衣室は棚と籠、そして洗面台が一つあるばかり。至ってシンプルです。まるで東北や九州の僻地にある共同浴場みたい。

 
浴室は家族風呂を思わせる小ぢんまりとした造り。長年使い込まれているのか、かなり年季が入っているので、空間のサイズや古く鄙びた感じなど、好き嫌いが分かれるかもしれません。なお私が訪問した日はまだ肌寒かったため、湯気が篭っていました。室内には後述する浴槽がひとつ据えられ、壁に洗い場が配置されています。

 
小さいお風呂でありながら、採用されている材質からは重厚感が伝わってきます。具体的には、室内の床や浴槽の底には切り出し石材が、浴槽側面には不規則に切断された石板が貼られています。温泉に対する施工主の情熱が感じられました。
そんな浴槽は2~3人サイズ。まさに家族風呂の大きさです。浴槽の隅に組まれた石の上から温泉が落とされており、浴槽縁からしっかり溢れ出ています。実にちょうど良い湯加減に思わずホッコリ。完全掛け流しの湯使いかと思われます。お湯は無色透明でほぼ無味無臭ですが、やや重曹らしい感覚が得られます。分析表によれば炭酸水素イオンやメタケイ酸など、いわゆる美人の湯と称されるような温泉に多いツルスベ感をもたらす成分が多く含まれていますが、かと言ってそれほど強い滑らかな浴感が得られるわけではありません。表現が難しいのですが、湯船に入ると温泉成分による滑らかなベールが肌を優しく包み込んでくれ、その上でツルスベ浴感がベールを通して伝わってくるような感じです。総じて癖の少ないアッサリとしたお湯であり、比較的お湯の主張もマイルドなのですが、にもかかわらず本物の温泉ならではのパワーを有しており、湯上がりは大変よく温まります。なかなかの実力派です。

いわゆる一般的な温泉に対するニーズとは逆ベクトルを示す渋い佇まいの温泉浴舎ですが、鄙びた風情や地方の湯小屋的佇まいが好きな方にはもってこいの雰囲気であり、お風呂に小細工が無いため、放流式の湯使いであるのも嬉しいところ。一人250円で貸し切れるのもありがたいですね。
というわけで冒頭に申し上げたようなマニアや、そんなマニアの志向を理解できる方にはもってこいの、穴場的なお風呂でした。本来は、すっぽん料理について感想を申し上げるべきお店ですが、今回はお風呂のみの言及とさせていただきました。

畑カッパ・上塩9
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 56.8℃ pH7.3 341.5L/min(掘削自噴) 溶存物質1.735g/kg 成分総計1.782g/kg
Na+:454.2mg(90.89mval%), Ca++:18.6mg,
Cl-:394.0mg(50.45mval%), S2O3–:0.2mg, SO4–:69.9mg, HCO3-:573.8mg(42.70mval%),
H2SiO3:153.7mg, HBO2:40.4mg, CO2:46.8mg,
(平成3年1月7日)

栃木県那須塩原市上塩原238
0287-32-2364

入浴可能時間不明
250円
備品類なし

私の好み:★★+0.5

コメント

  1. kama より:

    Unknown
    ここは穴場で静かにノンビリ入れるので好きな所です!
    この大きさの浴槽の割に、ドバドバの湯がとても気に入ってるお風呂です(笑)

  2. K-I より:

    Unknown
    kamaさん、こんにちは。
    まさに穴場という言葉がピッタリですよね。決して大きくない浴槽にしっかりとした量のお湯が注がれるので、お湯の状態が良く、私も気に入りました。

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