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津々浦々の温泉を訪ね続けている私はしばしば「温泉巡りをするようになったきっかけは何ですか?」と質問されるのですが、何か一つの特定できる出来事に出逢って温泉巡りに目覚めたわけではなく、小さいながらも強い印象を受けた数多くの想い出がいくつも積み重なり、次第に全国の温泉を訪ねて旅を繰り返すようになっていきました。そんな想い出のひとつに、今回取り上げる上栗山温泉「開運の湯」があります。
山間僻地の小さな集落にある長閑な温泉共同浴場にすぎないのですが、この浴場では、小さな休憩所に置かれた卓袱台で地元のお婆ちゃんが談笑しながら、観光で訪れた湯浴び客に声をかけ、手作りのお漬物を振る舞って、積極的にコミュニケーションを図っていたのです。まるでご近所の茶の間に上がりこんだかのような、なんとも言えないほのぼのとした雰囲気にすっかり心を掴まれてしまい、それ以降、私の湯巡りでは地元の方とふれあいという点が、私の温泉巡りにおける重要な要素の一つになりました。
そこで、先日旧栗山村を訪ねた際に、あのお風呂はどうなっているのか現在の様子を確認したく、久しぶりに再訪することにしました。
10年ぶりくらいの再訪問ですが、外観は以前とほとんど変わっておらず、思い出のままの姿を目にしてホッとしました。集落の共同浴場ですが、観光客(外部者)の利用も多く、また付近にあるオートキャンプ場のお客さんもこちらで汗を流すものと思われます。
前回訪問時は、玄関入って番台で湯銭を払うと、上述のようjに上り框の先の座敷に地元のお婆ちゃんがいらっしゃって、お風呂上がりにお漬物を振る舞ってくれました。卓袱台を囲んでおばあちゃんや客同士が和気藹々と喋り合うほのぼのとした雰囲気が非常に温かく魅力的でした。
しかし先日訪問した際、番台は無人で、おばあちゃんこそ一人いたもののお漬物振る舞いは無くなっており、湯上がり後には誰もいなかった。お漬物の振る舞いはもうやめてしまったのでしょうか。あるいはたまたま私の訪問時にやっていなかっただけなのでしょうか。保健所がとやかくうるさいこのご時世ですし、集落自体も人口が減っているのでしょうから、私を湯めぐりに駆り立ててくれた思い出がもう過去の物になってしまったのか、ちょっと気になります。
なお番台が無人の時は括り付けの料金箱に湯銭を納めるのですが、510円という中途半端な金額なので、もしお釣りが必要な場合は、番台に記されている電話番号のところへ連絡すれば良いそうです。
お風呂は「権現の湯」と「浅間の湯」の2つに分かれており、どうやら男女入れ替え制らしいのですが、この日は左側の「浅間の湯」に男湯の暖簾がさがっていました。
こぢんまりとした脱衣室ですが、洗面台やトイレの他、ドライヤーや扇風機の備え付けがあり、共同浴場にしては使い勝手が良い方かと思われます。なおロッカーは卓袱台があるラウンジに設置されています。
お風呂は内湯のみでこぢんまりしていますが、大きな窓から外光が降り注ぐので明るく、また湯気抜きの天井が高いので、実際の面積状の広さを感じることができるでしょう。
洗い場にはシャワー付きカランが3つ並んでいます。カランから出るお湯は真湯です。
四角い浴槽は横に並べば5人、向き合えば8〜9人は入れるようなサイズ。オレンジ色に濁った温泉が張られています。
大きな窓は谷に面しており、眺めが良好です。山深い仙境で湯浴みしていることを実感できるでしょう。
お隣の浴室と隔てる塀には、析出がコテコテにこびりついている湯口が取り付けられており、そこから滔々とお湯が注がれていました。浴槽に張られたお湯は窓側の溝へオーバーフローしています。浴槽のヘリはうろこ状の析出がこびりつき、赤黒く染まっていました。なおその溝には下からピューピューと細い筋を描きながらお湯が噴き上がっている箇所がありました。浴槽上部からの溢れ出しのほか、オーバーフロー管のようなものも設けられているのかもしれません。
こちらで使われているお湯は、約800m離れた市有(旧村有)源泉より引いており、こちらの他、周辺の宿泊施設にも引かれているようです。お湯は金気によりオレンジ色に強く濁っており、ちょっとした金気味と薄い塩味、そして硫酸塩泉的な風味を含んでいます。無色透明なお湯が多い地域にあって、このタイプのお湯は珍しく、大変貴重です。ちょっと熱めの湯加減なので長湯できにくいのですが、ツルスベの中にしっかりとした引っかかりがあり、金気のお湯らしい肌に染み入ってくるような浴感が得られます。気持ち良いお湯に違いありませんが、温まりパワーが強く、下手すると逆上せるので、長湯するのはやめておいた方がよいかもしれません。
日曜の夕方で先客3名、途中独占、後客2名。私が出ることに軽トラで地元の人が2名ほどやってきました。観光客のほか、地元の方々からも愛され続けている、地域に欠かせない存在なのですね。
おばあちゃん達とのふれあいが現在どうなってしまったのかわかりませんが、しかしながら、パワーのある掛け流しの濁り湯を手軽に楽しめるありがたい浴場であることには違いありません。また訪問したくなる、ほのぼのとした浴場でした。
市有上栗山温泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩・炭酸水素塩温泉 52.8℃ pH7.5 41L/min(動力揚湯) 溶存物質1.949g/kg 成分総計1.983g/kg
Na+:496.2mg(81.84mval%), Ca++:66.2mg(12.51mval%), Fe++:4.9mg,
Cl-:419.2mg(41.89mval%), HS-:0.9mg, SO4–:437.8mg(32.32mval%), HCO3-:423.6mg(24.59mval%),
H2SiO3:43.1mg, HBO2:21.6mg,CO2:33.0mg, H2S:0.3mg,
(平成22年9月10日)
東武・鬼怒川温泉駅などより日光市営バス女夫淵行で「上栗山」バス停より徒歩5分
栃木県日光市上栗山179-31
0288-97-1952
9:00〜17:00
510円
ロッカー・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5
コメント
行って参りました。
11月4日訪問。午後の入浴でお湯の状態は良く、貸切状態。湯浴み中、地元の方が入浴し話をすると、利用客が減り運営が思わしくないとのこと。お湯は逸品です(当方にわか温泉ファンなので、成分的に間違っていると思いますが有馬温泉の金泉のような、長野の松代温泉のようなパンチがあります)。混雑するのは正直困りますが皆さん入湯ください。それと振る舞いの漬物等は保健所等の指導でNGのようです(但し、行っ・◯◯ばわ◯・・◯)。※伏せ字はご理解ください。
Unknown
トムさん、こんばんは。
今日いらっしゃったとのこと。お疲れさまでした。実は私も休日の夕方という、本来は混雑していてもおかしくない時間帯に訪問したにもかかわらず、一時的ながら独占することができました。やはりお客さんが減っているのでしょうね。お湯は確かに良かったです。なるほど、有馬のお湯に近いものがあるかもしれませんね。振る舞いの件は、私もそんなことだろうと予測していまし(やはりそうでしたか)。いろいろと難しいご時世ですね。