(2021年12月入浴)
私は温泉巡りを計画する際、行く機会に恵まれない遠方の温泉を優先するあまり、気軽に行ける距離の温泉はついつい後回しにしてしまうのですが、それが原因で首都圏の温泉には疎く、閉館の情報に気づかないこともしばしば。今回取り上げる「横浜温泉チャレンジャー」もその典型。十年以上前に一度行ったきり久しくご無沙汰で、いつか再訪しようと思いながらも後回しを繰り返していたら、なんと2021年12月末を以て閉館してしまうという残念なお知らせを耳にしたので、時間を作り慌てて惜別入浴へ行ってまいりました。
若葉台団地のエントランスゲートとでも称すべき、大貫谷戸水路橋を潜って現地へ向かいます。
若葉台団地からちょっと外れた、昔からの谷戸地形らしい細い坂道や雑木林、そして沢筋が残る一角に今回の目的地があります。
「横浜温泉チャレンジャー」という温泉施設名には以前から謎めいたものや違和感を覚えていました。まずチャレンジャーとは何に挑戦しているのかしら。どんなことをチャレンジしているのかしら。そして確かに当地は横浜市だけれども、いわゆる港町横浜の中心部からは相当離れた横浜市の端っこの丘陵地帯にあたるので、横浜温泉と言い切ってしまうのは若干無理がなかろうか・・・なんて余計なことを考えていたのですが、いざ閉館してしまうと聞けばそんな重箱の隅をつつくような愚問はどうでも良く、ただひたすら残念な思いと、今まで訪問を後回しにしていたことに対する後悔の念に駆られるばかりです。
駐車場に車を停めて、玄関から中へお邪魔します。
エントランスの外側には、閉館のお知らせとその理由が張り出されていました。新型コロナウイルス感染症の影響で売り上げが減少し、毎月の赤字が膨らんで事業継続が困難になってしまったそうです。
下足箱に靴を入れ、右手にある券売機で料金を支払って、反対側の受付カウンターへ券を差し出します。玄関の右手は食堂兼休憩スペースとなっており、お風呂は左側へと進みます。館内はふた昔前のクリニックや保健所みたいな雰囲気なので、温泉に来たのか、あるいは体調を診てもらうのか、私の訪問目的が一瞬わからなくなってしまいました。
(更衣室から先の画像はございませんので、以下文章のみで紹介いたします)
更衣室は明るいものの全体的に古く、壁紙や天井がくすんでいたり、エアコンの化粧パネルがガムテープで補修されていたりと、随所に経営でご苦労されている形跡が見て取れます。なお他の温浴施設とちょっと異なる点として注意を要するのが、下足箱の鍵が脱衣室のロッカーキーを兼ねていることです。一応館内には説明があるのですが、注意書きの掲示箇所が少なく且つ小さいので、そのことを知らないと初回訪問時はどのロッカーを使って良いのか当惑するでしょう。自分の靴を預けた下足箱の鍵で、下足箱と同じ番号のロッカーを開閉するのです。それゆえ更衣室のロッカーには鍵が刺さっていません。
さてお風呂へまいりましょう。
浴室のドアを開けた瞬間、この温泉独特のアブラ臭がプンと鼻孔を刺激してくれます。神奈川県東部ですので化石海水型の温泉は珍しくありませんが、まさかハッキリとしたアブラ臭がこの地で嗅げるとは思わず、とても感動してしまいました。アブラ臭に中毒的な愛好心を有する一部の温泉マニアでしたらこの「芳香」に歓喜の涙を流すこと間違いありません。
浴室は左右に細長い造りをしており、向かって正面の壁には富士山の絵が描かれているのですが、ところどころ剥げていて、少々草臥れている感じです。横に細長い造りに合わせる形で、洗い場も左右に分かれており、シャワー付きカランは右手の壁沿いに4基、その背面の島に計6基、入口左側の壁沿いに4基の計14基設けられています。洗い場の各ブース(シャワー)の上には照明が取付られているのですが、その一部は腐食してしまったのか取り外されており、撤去跡が補修されない上、配線が剥き出しになっていました。先程の更衣室も同様でしたが、交換や修繕する費用を工面できなかったのでしょうね。ご事情お察し申し上げます。
なお出入口のすぐ右手にはぬるい掛け湯があり、蛇口から出ているのは紛れもない放流式の源泉かと思われます(味も匂いも強かったように感じられました)。
富士山の壁絵の真下に、これまた横長の浴槽が設けられています。私の目測で幅約6~7メートル、奥行2メートル程でしょうか。それを4:3程度に分けていて、窓側の槽ではジェットバスが稼働している一方、片方は特にこれといった仕掛けが無い普通の浴槽なので静かに入浴できます。この両浴槽の間に両者の間の壁面に木枠の湯口があり、間歇的にお湯がボコボコと出てくるのですが、お湯が源泉そのままなのか、あるいは循環された湯なのか、その辺りはよくわかりませんでした(鈍感ですいません)。なお、この横長浴槽の他、右奥には4人サイズの寝湯もあり、こちらにも温泉が張られています。
また、屋外へ出る扉を開けると、露天風呂があるのかと思いきや、浴槽らしきものはどこにも無く、あるのは所謂バルコニーで、椅子が6脚ほど置かれてクールダウンスペースになっています。
さてこちらの温泉のお湯は、上述のようなアブラ臭が特徴的で、版画インクを思わせる独特の匂いが湯口から放たれて室内を漂っています。湯口から出てくるお湯は無色透明のように見えますが、浴槽では淡い鼈甲色を帯びている気がします。口に含むと塩味が強く、またほのかに苦みもあり、いかにも化石海水らしい特徴を有していますが、千葉県東葛や埼玉県東部などのような著しい塩辛さは無く、金気もほとんど感じられません。湯口のお湯は塩味もアブラ臭もしっかりしているのですが、浴槽では味も匂いも弱まっているので、湯口で源泉を投入した後、循環の過程で加水されるのかもしれませんね。とはいえ溶存物質8543mgという濃さを誇る食塩泉だけあり、湯船に浸かるとツルスベの滑らかな感じと引っ掛かる浴感が拮抗し、力強く火照って、湯上り後も長い時間にわたって温浴効果が続きます。加水加温循環ろ過消毒という掛け流しとは程遠い湯使いですが、丘陵地の中で湧く温泉とは思えないほどとても面白い個性を持つ曲者の温泉ですので、閉館によってもう入れなくなるのかと思うと、残念でなりません。
こちらは駐車場に隣接している源泉施設です。閉館後はどうなってしまうのでしょうか。
閉館まで1週間ほどありますので、お近くの方は惜別入浴してはいかがでしょうか。
横浜温泉
ナトリウム-塩化物温泉 44.0℃ pH7.6 57L/min(動力揚湯) 溶存物質8543mg/kg 成分総計8857mg/kg
Na+:3110mg(91.59mval%), Ca++:140mg(4.65mval%),
Cl-:4780mg(95.51mval%), Br-:18mg, HCO3-:373mg(4.33mval%),
H2SiO3:102mg, HBO2:196mg,
(2019年10月25日)
加水あり(入浴に適した温度に保つため)
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環ろ過あり(衛生管理のため)
消毒あり(衛生管理のため。次亜塩素酸ナトリウム溶液自動注入)
神奈川県横浜市旭区上川井町2287
045-922-5590
ホームページ
9:00~20:00
800円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★
コメント
惜別入浴
先日、私もこちらの温泉の閉館を知り、惜別入浴をして来ました。以前、ここからそんな遠くない場所に住んでいた事もあって、何度か入りに行った思い出の施設でもあり・・・
訪問は10年ぶりくらいでしたけど、入浴料が800円は随分高くなったなあと言う感じ。以前は500円でしたからね。閉館に際しては、新型コロナによる入浴者の減少もありますが、狭い浴室で露天風呂もなく、施設の見劣りと老朽化に加え近隣に新設されたスーパー銭湯と比べての相対的な魅力低下が否めなかったのかもしれません。
以前はもう少し土類系の濁りがあったような気がしますが、それでも岩手の巣郷温泉や焼石岳周辺の温泉を思い出す独特の樹脂系アブラ臭は健在でした。この浴槽は、ジャグジーで攪拌されて浴槽からアブラ臭が香り立ってくるのがいいですね(笑)。間欠投入なので新湯注入率は分かりませんが、利用客もそう多くないので比較的湯遣いとしては良好な感じが保たれていたように思います。
ちなみに、「チャレンジャー」とは掘削した会社の名前なのだそうです。
Unknown
lonely-blueskyさん、こんにちは。返信遅くなり申し訳ありません。
チャレンジャーってそういう意味だったんですね。知りませんでした。最後の最後に知ることができてスッキリしました(^^)
おっしゃるように、周辺に次から次へと綺麗で立派な施設ができましたから、どうしても見劣りしてしまうんでしょうね。とはいえなかなか面白いタイプのお湯でしたから、入れなくなってしまうのは残念です。