大鰐温泉 久七温泉客舎

青森県

(2024年12月訪問)
青森県の温泉地で湯治に利用されていた地域には「客舎」と呼ばれる独特の施設があります。一般的に温泉旅館は浴場を内包しており宿泊客に食事を提供しますが、湯治の場合は長期滞在が前提ですから、費用が嵩むのを防ぐために比較的簡素な宿で自炊しながら共同浴場に通うスタイルをとることになります。青森県の一部温泉地で見られた「客舎」とはいわゆる湯治宿の一種であり、コストカットを目的とした宿は浴場を内包しないため、お風呂へ通う客のため共同浴場の周囲に建てられ、湯治客のほか工事や出張などの長期滞在客にも使われました。黒石市の温湯温泉では客舎が共同浴場を取り囲む伝統的な街並みが残っている一方、同じく客舎が多い県内の温泉地といえば大鰐温泉が有名であり、温湯の客舎は施設内に浴場を有しませんが、大鰐の客舎は温泉浴場を擁する施設が多いのが特徴的です。
と言っても大鰐に複数あった客舎は数を減らし、現在残っているのは成田客舎と久七客舎の2軒だけでしょうか(他にあったらごめんなさい)。しかも成田客舎は現在客を受け入れているか判然としないため、利用可能であることがはっきりしているのは久七客舎のみといった状況です。
そこで今回はこの久七客舎で日帰り入浴することにしました。

こちらの客舎は、どうやら現在宿泊を受け入れておらず、入浴利用のみの営業となっているようです。私が訪ねた日も一見すると営業しているようには見えず、引き戸を開けて館内に入っても中が薄暗くて不安になってきます。「ごめんください」と声をかけても一向に反応無く、仕方なくその場で電話を掛けたらようやくおばあちゃんが奥から出てきてくださいました。そんなこともあろうかと、念のため私は前日に入浴利用したい旨の電話連絡をしておいたので、今回無事に入れたのかもしれません。

玄関へ来てくれたおばあちゃんがお風呂まで案内してくださいました。廊下の左手に男女別のお風呂があり、右手には湯治客用の炊事場が設けられています。流し台の水栓を開けると、今でもちゃんと水が出てきました。
脱衣室は至って質素で余計な設備は一切なく、古い換気扇が天井に1台(遅いけどちゃんと回ります)、そして衣類を入れるプラスチック製のカゴが用意されているばかりです。しかもそのカゴは底が抜けてしまったらしくビニール紐で補修されていました。

レトロ感たっぷりなタイル張りの浴室に入ると、大鰐の石膏泉らしい独特な匂いが湯気とともに室内に充満していました。この浴室は前と左の2方向がガラス窓なのですが、隣家が近接しているため然程明るいわけでもなく、その近さゆえに曇りガラスから隣家の様子が何となく伺えてしまいます。

洗い場には設置位置が低すぎる謎の洗面台が。
なおシャワーはありません。

浴槽は豆タイル張りで、右下が膨れている独特な形状です。なお訪問時は湯口のお湯が止められていました。おそらく出しっぱなしだと湯船が激熱になってしまうのでしょう。そのお蔭で丁度良い湯加減となっていました。

でもせっかくですから、湯加減があまり変化しない程度にお湯を出してみました。こちらに引かれている源泉は植田3号。無色透明で薄い塩味と石膏味、そして芒硝味を有し、上述のように石膏の香りを放っています。湯船に浸かると硫酸塩泉的な引っ掛かる浴感とともに、肌へ染み入るような潤いが得られ、お風呂上がりには温浴効果のみならず肌のモイスチャー効果も長続きしました。大変素晴らしいお湯です。無論完全かけ流しの湯使いです。

良いお湯はシンプルなお風呂で入ってこそ、その持ち味を存分に享受できますね。かつての青森県で見られた湯治文化の象徴である「客舎」は、今や風前の灯火。その歴史を現地で追体験するなら今のうちです。

今のうちといえば、この大鰐の地から中央弘前へ向かって走る弘南鉄道大鰐線に乗れるのは、あと2~3年限りです。2027年度末(2028年3月末)で廃止されることが決定されています。私は何度もこの電車に乗って弘前と大鰐を往復しましたから、廃止決定の報に接した時には非常に落胆しましたが、1974年度に利用客のピークとなる389万人台となったものの、その後は減少の一途をたどり、2023年度は約27万人と、ピーク時の14分の1以下にまで激減しちゃったそうですから、廃止の決断が下されるのも仕方ありません。

植田3号源泉(再分析)
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 62.1℃ pH6.68 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質2.568g/kg 成分総計3.003g/kg
Na+:680.2mg(72.79mval%), Ca++:184.4mg(22.63mval%), 
Cl-:1008mg(72.05mval%), SO4–:402.7mg(21.24mval%), HCO3-:150.1mg, 
H2SiO3:61.6mg, HBO2:25.1mg, CO2:435.2mg,
(2023年5月18日)

青森県南津軽郡大鰐町大鰐108-2
0172-48-2822

利用可能時間は施設へお問い合わせください。
300円

私の好み:★★★

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